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2026.10.28

看護とファシリテーションをつなぐ「Observe」

永井 由美

TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。

ある日、テレビから「observe(オブザーブ)」という言葉が何度も聞こえてきました。それは、NHK連続テレビ小説『風、薫る』のワンシーンでした。このドラマは、明治時代を舞台に、生きづらさを抱えながらも、日本で初めて正規の訓練を受けた看護婦となった二人の女性の姿を描いています。ドラマの中では、看護師の養成所で、ナイチンゲールの著書『NOTES ON NURSING』(看護覚え書き)に書かれてある「observe」という単語の訳に、生徒たちが苦戦する場面でした。

主人公の直美(上坂樹里)は、翻訳の相談をするために、捨松(多部未華子)のいる大山家を訪ねます。医療や科学の分野では「観察する」「気づく」といった意味で使われることの多い言葉ですが、これまで知っていた訳を当てはめても、どうにも文章になじみません。ナイチンゲールが著書の中で何度も使っている言葉だからこそ、単に「見る」というだけではない意味が込められているのではないかと直美はその言葉と向き合うことになります。そこで捨松が伝えたのは、「包み込むようにじっと見続ける」というヒントを与えました。患者の様子をよく見て、小さな変化に気づき、その人が何を必要としているのかを読み取る。ただ目に映るものを見るのではなく、相手を見続けることで、その人の状態や思いを理解しようとする。そこまでを含めて、「observe」という言葉の意味を捉えることができるのかもしれません。

ナイチンゲールが書いた『NOTES ON NURSING』(看護覚え書き)は、今から170年前の1859年にイギリスで出版されました。当時、看護や介護は女性たちに任されていたことから、内容は看護師向けではなく、すべての女性を対象に書かれたものだそうです。そして出版してすぐにベストセラーとなり、多くの国でも読まれることとなりました。翌年の1860年に第1版に看護師向けの原稿が大幅に書き加えられ、「看護師とは何か」と「回復期」などの項目も追加された第2版が出版されました。「看護覚え書き」の第1版は今でも多くの国で読まれていますが、日本では看護師向けの第2版の日本語版が100年以上後の1960年代後半に発行されました。出版直後から看護師のバイブルとなり、今ではいくつかの出版社から発行されていて、看護学校や大学のテキストやサブテキストとしてずっと読みつがれているそうです。『NOTES ON NURSING』(看護覚え書き)の内容は、項目ごとに分かれており、病院の環境に関することが多く書かれてあり、後半にある「病人の観察(Observation of the Sick)」という項目の中に、今回注目をしている「observe(オブザーブ)」ということが書かれてあります。ナイチンゲールは「正確な観察習慣を身につけないかぎり、われわれがどんなに献身的であっても看護師としては役に立たない」とまで述べています。すべての看護ケアは観察から始まるとされているようです。

「observe(オブザーブ)」という言葉はTAPセンターでもよく使われる言葉です。まず思い浮かぶことは、実施されているプログラムを見て学ぶことです。TAPセンターでは、ファシリテーションのスキルを高めるために、学生がTAPのスタッフが実施するプログラムをオブザーブすることがあります。そこでは、スタッフがどのように動いているのか、何を見ているのか、目の前の状況をどう捉え、判断し、次の行動を決定しているのかなどを見ていきます。同時に、参加している子どもたちの様子や、一人ひとりの小さな変化を追うことも大切なオブザーブの一つです。しかし、この「Observe(オブザーブ)」ということが、実はとても難しいことだと感じています。同じプログラムを見ていても、何に目を向け、何を大切な変化として捉えるのかは、人によって異なります。これは一人ひとりの性格や特性によっても偏ることもあります。ある人はスタッフの立ち位置や声かけに注目し、別の人は子どもたちの表情や仲間との関係性の変化に目を向けるかもしれません。それぞれが異なる視点から、プログラムの中にいる人や起きている出来事を捉えていきます。TAPの中でもObserveは、ただプログラムを眺め、起きていることを捉えることだけではありません。何を見るのかという視点を持ち、目の前の出来事に気づき、その背景に何があるのかを考え、どのように参加者に働きかけていくのかを考え続けることでもあります。そして、オブザーブは、プログラムを外側から見ている人だけではなく、実際にプログラムを行っているファシリテーターもまた、考え続けながら進めています。

この「Observe」は、看護の世界とも通じるものがあるように思います。看護において患者を観察し見続けることと、ファシリテーターが参加者を見続けること、そのどちらも見たものの意味を考えて、判断して、行動して、その結果をまた観察するそんなサイクルが続いていきます。

TAPセンターには、これから看護師を目指す学生たちも訪れ、プログラムを受講します。TAPを通じて、人を見ること、そして、見えたものから何を考え、そこからどう行動するのかを考えること。こうした経験は、看護を学ぶ学生たちにとっても、大切な学びにつながるのではないかと考えています。

看護師を目指す学生にとっても、ファシリテーターにとっても、人を見るということは簡単ではないと思います。さまざまな人と出会い、自分の見方を問い直しながら経験を重ねて身につけていくことが必要なのかもしれません。

<参考文献>
・川嶋みどり 編・著、『14歳の葵と読む ナイチンゲールの「看護覚え書き」 古くて新しい170年前の「看護」の知恵』 ライフサイエンス出版株式会社、2026年

・『風、薫る』「observe」が突きつける看護の本質 見上愛×上坂樹里が少しずつバディへ (2026年4月30日掲載) - ライブドアニュース
https://news.livedoor.com/topics/detail/31138579/ (2026年9月8日閲覧)

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