ColumnポストコロナとTAP

2020.07.07

ポストコロナとTAP(第3回)

工藤 亘

TAPスタッフが短期集中コラムとしてコロナ禍の教育の実情と課題について提言します。

みんなで学ぶ意義の再考と生徒指導

「友」という漢字は小学2年生で学びます。 又(ユウ)と又を組み合わせた形。又は右手の形で手を取り合って助け合うの意味となり、「とも、ともだち、なかま」の意味に使われる。(福井県教育委員会編「白川静博士の漢字の世界へ」平凡社、2011年、p.83)

<みんなで学ぶ意義>
子どもにとって学級とは多様性のあるヒト・モノ・コトと出合い、子どもの既有の知識や経験が再構築され、人生や生き方について学ぶ場です。近年の学習理論は、学びが個人の頭の中だけで成立するものではなく、他者との社会的な関わりの中で構成されるという社会的構成主義が学級でも求められています。
学校は、学校内外の人々と連携して学校が直面している諸問題の解決を探り続ける場であり、学びを中心に組織された大人と子どもが育ち合う場です。学級は相互の関わり合いの中で学ぶ共同体であり、そこにおける学びとは、対象世界や自己や他者との対話とそれによる関係性の再構築です。また学校は異年齢間が関わり合い、相互にコミュニケーションし合いながら学び合う場所であり、子どもの学びを促進するためには開放的かつ活動的な学級風土が必要です。さらに学校は、子ども達が他者・自然・事物と関わり合う場所であり、家庭や地域で経験的に学んできた内容を学び直す場でもあります。
以上のことからも学びとは、単に知識量を蓄積することではなく、他者との出会いや関わりなどの相互作用を通して対象の意味を解釈し新たな創造や再構成していく営みであり、学習者が自分一人のみで行うことでないことが分かります。したがって学級には、お互いに尋ね合い、学び合う姿勢や関係が存在し、みんなの学び合いの一員として自分らしさを発揮できる場という意義があります。

<学級における集団的社会性>
学級の中で獲得される集団的社会性の内容(蘭,2003)は以下の通りです。
①新たな教師や仲間との出会いや仲間づくりとその過程での対立や葛藤を経験し、対人関係の在り様を身に付ける
②基本的な学級生活上のルールを理解し、新たな学級規範を再形成し、その行動様式を取り入れさらにその推進を図る
③学級目標の合意形成やその達成に向けた集団的な取り組み過程を経験して、役割認識や学級への所属意識等を高めていく
④学級目標と個人目標の達成状況の評価、学級規範と個人内規範との相対化等を通して、集団的自己の統合化が図られる
*学校が再開されましたが、分散登校の影響や3密回避での学級経営では、子どもの集団的社会性の発達を促すことが大きな課題の一つです。この課題解決に向き合っていく必要があります!

<生徒指導の観点から考えるポストコロナ>
生徒指導の理念は「一人一人の児童生徒の個性の伸長を図りながら、同時に社会的な資質や能力・態度を育成し、さらに将来において社会的な自己実現ができるような資質・態度を形成していくための指導・援助であり、個々の児童生徒の自己指導能力の育成を目指す」ものです。この太字部分が生徒指導の目標ですが、いずれも学校での教育活動や集団生活を通じて育成していくことが前提です。ポストコロナでいかにこれらの目標を達成するのかを考えなければなりません。
例えば、個性を伸長するには、多様な個性を発揮させるための場が必要であり、違いを認め合うことや尊重することが大切です。社会的な資質・能力・態度の育成や自己指導力の育成には、対人関係を育む環境が必要です。個人の資質・能力(コミュニケーション能力・表現力・社会性・協調性・責任感)は社会の中で、相互に学び合い、関わり合うことで育ちますが、コロナ禍において学ぶ機会が減少しています。
生徒指導は、①開発的生徒指導(全ての子どもを対象とし問題行動の予防や子どもの個性・自尊感情・社会的スキルの伸長に力点を置く)、②予防的生徒指導(登校しぶり、保健室に頻繁に行く等の一部の気になる子どもに対して初期段階で問題解決を図り、深刻な問題に発展しないように予防)、③問題解決的生徒指導(いじめ、不登校等の深刻な問題や悩みを抱えている特定の子どもに対して学校や関係機関が連携して問題解決を行う)の三つの側面があります。生徒指導の範囲は広範囲であり、学習や生活の基盤として教師と子どもとの関係構築が必要不可欠です。(表参照)
前回のコラムで「教育現場の声」を取り上げましたが、子どもの様子で気になる点は全て生徒指導の範囲に含まれています。
例えば学業指導では、「家庭での学習状況で学力に差がみられる・授業時間の短縮などで詰め込み式となり、学習の遅れている子どもには厳しい・休校期間中の学習内容の定着ができていない(個人差も大きい)」への対応が求められます。単に〇を付けるだけでなく、フィードバックをしないとモチベーションも下がります。
適応指導や社会性(公民性)指導では、「分散登校で少人数のため、委縮したりプレッシャーを感じている子もいる・友達づくりに消極的になっている・友達や異年齢の交流などができずにいる」への対応が必要です。健康・安全指導や余暇指導では、「運動不足による体力の低下・頭痛や腹痛を訴える子どもが多い気がする・昼夜逆転している子どもがいる」への対応が必要です。小グループで3密を避けた身体的な活動などを積極的に導入したいものです。

生徒指導の範囲
学業指導 入学時期のオリエンテーション、学習用の選択、学業上の困難に対する診断や指導。学業生活の改善・向上。
適応指導 人間の価値と尊厳重視、一人ひとりの人格を大切にし、調和的発達を目指す。性格に対する悩み・要求を受容し、自ら解決できるよう支援すること。生活適応のため。
社会性(公民性)指導 集団・社会の一員としての資質の育成を目指す。友人との協調的関係の構築、リーダーシップ、社会慣習や礼儀・マナー、ボランティア活動など、他者との望ましい関わり方。社会性・公民性の育成。
道徳性指導 人間としての望ましい生き方や人間関係の在り方に関する指導。
進路指導 進路を自覚的に選択できる能力を養う。自身の能力・適性を深く理解できるように支援し、進路やその選択に関する知識・態度の習得を目指す。卒業生への指導含む。適切な進路選択。進路相談。
健康・安全指導 健康で安全な生活を送るための知識・技術を活かすための指導。生活習慣、交通安全、不審者対策、ネット上でのトラブル回避など。
余暇指導 放課後、休日、長期休業日などに自分に適した望ましい活動を選択し、自己成長に生かすことを指導。クラブ活動・部活動などの余暇活動。生涯学習。

<心のケアとC-zoneの確保>
コロナショックは、子どもや大人への身体的・精神的な影響を及ぼしています。ウィルス罹患への恐怖、生活習慣の乱れや体力低下、経済的負担等、ストレスや不安が高まっています。高ストレス・不安定な環境下では、マイノリティはいじめや不当な扱いを受けやすいといわれています。長い休校期間中は、家庭全体が不安定となりトラブルが起きやすいため、DVや児童虐待のリスクも高まっています。
したがってプレコロナ以上に、子どもからのサインを注視し、キャッチしていく必要があります。子どもの言動(言語・非言語)、持ち物、服装、提出物等に気を配り、児童生徒理解に努める必要があります。しかし、担任一人で背負う必要はなく、他の教員や管理職、養護教諭やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等とも協力し子どもたちのケアをしていくべきです。また子どもへの影響力が最も強い教師自身のメンタルヘルスや健康管理も大切です。
平時でさえ心身ともに不安定な思春期を乗り切るために、不安を共有できる仲間関係が重要です!新入生にとっては平時でさえ、新たな環境への不安や期待が入り混じっているため適応に困難が生じます。この様な状態での学校再開では、より一層、学校・学級が心身ともに安心できる環境(C-zone)や安全基地でありたいものです。
「安全は、人間が潜在能力を発揮する上で、欠かすことができない。安全は、社会的行動にとってだけではなく高次の脳が創造性を発揮し、生産的であるためにも必要不可欠である」(Porges,2018)
一日も早く、手と手を取り合い、助け合う友達と伸び伸びと生活できる日が戻ってくることを願っています!

学級運営と生徒指導の関連図
国立教育政策研究所生徒指導研究センター(2005)「学級運営等の在り方についての調査研究」p.9

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