ColumnポストコロナとTAP

2020.07.13

ポストコロナとTAP(第5回)

川本 和孝

TAPスタッフが短期集中コラムとしてコロナ禍の教育の実情と課題について提言します。

コロナ禍で揺らぐ民主主義

これまでのコラムでも述べてきましたが、今日の世界情勢、日本の情勢を見渡してみると、「民主主義」の在り方が問われるような問題が多発しています。そもそも、民主主義の本質は「主権者である国民の誰もが、政治的決定に参画できる権利を有している」ところにあると考えます。そのため、民主主義国家における「民主的な学校」とは、「学校教育」という一定の制限はあるものの、主権者である児童・生徒自身が、日常の諸問題や生活上の諸問題を自分たちで発見・解決していくことによって、「民主主義」としての在り方を体験的に学んでいくことが必要となるのです※1)。
しかし、現状のコロナ禍における学校教育において、「感染予防」「安全確保」という名の下に、「日常の諸問題」「生活上の諸問題」を児童・生徒から遠ざけ、大人たちだけで解決してしまうことや、大人からの一方的な指導だけ終始してしまうことが少なくありません。このような現状の中で、本当に「誰もが平等な権利の元に、問題を発見し、その解決のためのアイディアを持ち寄り、意見をぶつけ合い、よりよい政治方針・政策を決めていく」という、民主主義を生きる国民としての資質・能力は育まれるのでしょうか。当然、民主主義はその国の文化や時代のニーズによってもその在り方は異なってくると思います。ただ、自分たちが生きる「今」の問題を認識・分析し、その問題解決をしていくことによって、「民主主義は初めて機能していく」・・・、という点においては、おそらくどの国・時代においても共通した原点であると考えます。「揺らいだ民主主義」を立て直すためにも、5年・10年先を見据えた「教育」が今まさに求められています。

  • ※1 日本の教育課程においては、これらを総称して「自治的な活動」と呼び、「特別活動(特活)」を通じて実践されています。前回のコラムでは、国内のコロナ禍における「自治的な活動」の地域・学校による取組の格差から生じる、「自治的能力格差(特活格差)」について触れていますので、ぜひご参照ください。

民主主義とAdventure

玉川学園が2005年から加盟している、ラウンドスクエアには「I.D.E.A.L.S.」、(Internationalism、Democracy、Environment、Adventure、Leadership、Service)と呼ばれる基本理念が存在しています※2)。この6つの基本理念は玉川学園・玉川大学における全人教育は、非常に通ずるものが多いのですが、着目したいのは、この「D(Democracy)」と「A(Adventure)」です。おそらく、多くの方は「Democracy(民主主義の精神)」と「Adventure」が関連付かないのではないでしょうか。しかし、ここにTAPと民主主義を結びつける大きなヒントがあると、私は考えています。
民主的な国家を形成していくためには、冒頭にも述べたとおり現状の問題を認識し、問題を解決するための手段を一人一人が考え、話し合っていくことが重要になります。そのため、そのプロセスにおいて求められるのは、現在社会で起こっていることや身の回りに起こっている出来事を「自分事」として捉え、それを自分なりに分析できる力です。TAPにおいてはこのプロセスを「リフレクション(振り返り)」を通じて学んでいますが、問題を発見する際にも(その後に問題解決)、具体的な目標を設定する際にも、また夢や理想を持つためにも、このリフレクションできる力が必要となるのです。
身近に起こっている出来事を「他人事」として捉えているということは、それはまさにC-Zoneの中に閉じこもっている状態です。そのため、日常生活の中に「新たなる気づき」が減少してしまい、そもそもリフレクションが必要となる機会が訪れません。「新たなる気づき」は、常にC-Zoneに「揺らぎ」を起こした状態、つまりS-Zoneに一歩踏み出した状態で引き起こされる現象です。そして、そのS-Zoneへの一歩を通じて生じる「気づき」は、リフレクションを通じて「学び」に変換され、現状を「よりよくしていく」ための具体的な目標へとつながっていくのです。
つまり、自分たちの手で「よりよい国を作っていく」「よりよい学校を作っていく」というのが民主主義であるとするのなら、自分や自分たちのなりたい姿に向けてS-Zoneに一歩踏み出すというAdventureは、まさに民主主義(Democracy)の必要条件とも言えるのです。もはや、AdventureせずにC-Zoneに居続ける状態では、絶対的に「民主主義」は成立しないと言っても過言ではないでしょう。そのようにして考えると、TAPの活動は民主主義国家に生きる私たちにとって、とても大切な活動なのです。

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