ColumnTAPコラム

2021.06.30

「木に登れ、神を見よ」
-アドベンチャー教育の系譜 (Another story)-

大山 剛

TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。

「木に登れ、神を見よ」

こうした言葉だけを聞くと最近の人は(誰を指して最近の人というかはさておき)「言ってる意味、わかんなーい」から始まり、最後には「あそこの人たちは(誰を指してあそこの人というかはさておき)何か胡散臭い宗教がかっていて怪しい」まで、いろんなネガティブ反応が見られてしまう昨今ですが、決してそうではありません。違います。この言葉は玉川学園小学部で、長年にわたり体育を指導された臼井和夫先生(1960年〜2003年在職)が小学部の卒業生に、いつまでも大切にしてほしい心情と彼らの未来に向けて贈った「門出の言葉」です。
小学部6年生は卒業するにあたり、児童が自筆で作成する「自叙伝」という大労作があり、原稿用紙100枚以上を本人が記述します。そして本文が完成して製本も終えた2月下旬から、それぞれの先生が一人ひとりに応じてサインをする時間と場がありました。臼井和夫先生は、そのページにこの言葉をプレゼントすることが多かったと記憶しています。

その昔(いつを指してその昔というかはさておき)「木登り」は子供の生活、特に男の子の中では欠かせない遊びの一つでした。近くの空き地や公園に集まった彼らは、そこに植わっている適当な木を定めて、誰彼となく登り始めました。木の形状や二股に分かれた枝の太さと方向、子供の指に引っかかりやすくそれでいて痛くない樹皮の形状、樹上で身体を安定させるための支持点の把握、今の自分体重ならここまでは大丈夫、けれどこれ以上登ると枝が折れて落下する、背中から落ちた時にホントは一瞬なのにこのまま息ができなくなると思える数秒間、何よりもそのリスクを回避する危険察知感覚、などなど年齢と経験に応じて体得していました。
子供の遊びとして当たり前のことでしたから、もちろん学校教育の中でわざわざ木登りの効用についてお題目を唱えたことはありませんが、もしあえて今風に言えば「体験を通すことによって多くの学びを得ることのできる遊びの一つ」と言い換えられます。しかしだからと言って今、「木登りをしなさい」とか「もっと自然に帰しなさい」という、べき論を語ることも少し違うと思います。それに昔は有効な教育手段があったのにと、以前を懐かしむつもりもありません。けれどもひとつ皆さんにお伝えしたいことがあって、このコラムで取り上げてもいいと思うことです。
それは、先生が自叙伝の贈る言葉として取り上げた意味、そして現在、私たちがTAPとして取り組んでいる体験学習プログラムの考え方や方向性、その中にはこうした「木登り」に共通する大切な願いが含まれているということです。

アドベンチャープレイグラウンドと児童のための体育

現在のTAPチャレンジコースは2000年にできたものですから、すでに20数年を経過しています。それだけでも日本の学校現場にある野外コースとして最も古いものですが、さらにそこから25年さかのぼる1975年以降の記録写真資料と1976年の「小学教育研究(紀要)」の中には「ADVENTURE PLAYGROUNDS TAMAGAWA」の記載があります。

まったく今更ながらに学校教育の中で「アドベンチャー」という概念をいち早く取り入れて、小学校体育カリキュラムの活用を始めたセンスには驚かされます。玉川学園小学部の体育スローガンは以前から「児童のための体育」ですが、それは成果主義ではなく、技術習得主義でもなく、運動そのものが児童の発育発達に有効であると同時に、多彩な運動体験を積み重ねることによって克己、協調、挑戦、自律、他者への尊敬と自尊等、様々な心情と態度を培いながら、結果として運動能力の向上や技能が、成果として表出されるという考え方を大切にしています。
また、日本におけるアドベンチャー教育について、特に詳しく文献を調べたわけではないのですが、1975年の段階でこれらの施設が運用されていたという事実、そして現在のTAP以前のアドベンチャープログラムの一つの形として、少しでもその時期の教育活動に携わっていたことを誇らしく感じています。もとよりアドベンチャー教育日本初の一番争いを主張したいのでもないのです。本学創立時から誰もが誇りを持って取り組んでいる「本物の教育」を体現したものとして、子供に必要と思われることを実践してきた結果でしょう。そう、結果的にThe first oneであったかも知れません。が、それを目的としたものではありません。幸いにも最近、臼井先生ご自身から直接お話を聞く機会がありました。で、この件については一言、「この自然環境を生かした活動ができるのは、当時の日本では玉川学園だけだから」と、こちらの思惑などあっさりと切り捨てられました。

アドベンチャー教育の系譜

ひとつ確認させてください。ここまで私の伝え方が中途半端なので、もしかしたら「TAPイコール体育」と思われる人もいますが、それは誤解です。私の言葉が足りないからです。
もちろんTAPも体育もどちらも「身体性をともなう学び」であることは間違いありません。また、TAPの各プログラムの目的の中には体育と同様、身体活動の育成としてゴール設定する場合もあります。しかし、Tamagawa Adventure Programの目的はそれだけに留まらず、より幅広い分野に広がっています。ADVENTUREの場は野外だけにあるのではなく、運動領域だけで展開するものではありません。日常生活の全ての中にある「アドベンチヤーに気がつくこと、それぞれの課題に焦点を当てること、個々と集団の目標達成のために挑戦すること」を願っています。

そして玉川学園はここで紹介した「ADVENTURE PLAYGROUNDS TAMAGAWA」以前、学園創立時から現在のTAPにつながる教育理念を掲げています。それは学園の12信条やRound Square、IB(International Baccalaureate)にもうたわれている理念です。ですからTAPそれ自体は、学園の歴史の中で見ればわずかに20数年前に始まったプログラムですが、本学のAdventure教育の系譜として、この時代の全人教育の具体的な解釈の一つとして継続されています。
こうした1975年からの授業計画や実践のことは、TAPとしてもう少し時間をかけて掘り下げていくことが必要と考えていますので、しばらく時間をいただきながら、あらためて内容をまとめて報告したいと計画しています。

ふたたび「木登り」のこと

今、この時代にあって子供たちが「木登りする」機会はなかなかありません。(今はツリークライミングという形で変化していますが)しかしながらその昔(いつを指してその昔というかはさておき)、学級担任が撮影するクラス集合写真では、たいてい何人かの子供たちが木の上に登ったりぶら下がったり抱きついたりの位置で得意そうに写っています。冒頭のタイトル「木に登れ、神を見よ」は、現在ではわかりにくい表現かも知れません。しかし卒業生を含めて学園に関係する人でしたら、次の言葉を、今回のタイトルと近しい感覚として受け留めていただければ幸いです。

「神いますみ空を仰げ」

こちらも、ある先生が自叙伝に好んでサインをされていましたが、TAPの願いも本学の願いも、この言葉の中に含まれている事柄ではないのかと。
子供たちへの贈り物だけでない、もっともっと幅広く、言ってみれば
「人間社会全般の営みのなかで一つだけのファクターにとどまらない、どれだけ大切なものであるか、そして私達の教育の究極の願いは何か」
その行き先を端的に表現する一文であると、今あらためて思います。どうぞこれからもTAPをよろしくお願いします。

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