ColumnTAPコラム

2021.09.06

TAPの活動とプロソーシャル・モチベーション

川本 和孝

TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。

新型コロナウイルスの感染予防に伴って、これまでTAPの活動は大きな影響・制限を受け続けてきました。活動を通じて心と身体の触れ合いを重視してきたTAPは、もう既に長いこと通常通りの活動ができておらず、また現段階においても、コロナ禍前のような活動が再開される見通しは、依然として持てないままでいます。しかし、こうした時だからこそ、改めてTAPの意義や重要性について考えさせられます。今回は、その様々あるTAPの意義や重要性の中から、近年着目されている「プロソーシャル・モチベーション」と動機付けの理論とTAPについて、個人的な見解を述べてみようと思います。

日常的となった「マジ意味ない」という言葉

日常の学校教育現場では、「マジ意味ない」、「これなんか意味あるの?」といった言葉を、本当によく聞く機会があります(恐らく学校教育現場だけではないですが・・・)。しかし、よくよく考えてみれば、確かに学校教育では、教科教育を中心として、基本的には「意味ある」ことを教えています※)。そのため、実際に大学生を対象に授業をしていても、「これテストに出ます!」と言うと、学生は途端にメモを取るために、一生懸命にペンを走らせます。逆に、「これはテストに出ません!」というと、誰もメモを取りません。また、出された課題やレポート等に対して、「マジこの課題、意味ないんだけど」、「この課題、意味なくね?」といった事を学生から聞くのは、もはや日常的です(言い訳しておきますが、決して私の授業ではありません)。

※以前のコラムにも書きましたが、私の専門でもある特別活動は、まさに学校教育における「学び方を学ぶ」代表格です。

生活・仕事・活動等から意味や学びを探すこと

そんな「マジ意味ない」に対抗するかのごとく、私はコロナ禍以前までのTAPの活動前に、よく次のような話をしていました。

「何かをするときに、その意味を教えてくれる大人がいるのは、学校にいる時までです。その後の社会には、その意味を教えてくれる人はいません。同じ体験・同じ仕事をしても、『意味ない』と受け取る人と、そこから自分なりの『意味や学び』を見つけられる人とでは、その後の成長には大きな差が生じます。つまりTAPは、そうした日常の生活や仕事、または勉強や遊びから、自身が成長していく上で必要となる、自分なりの『意味や学び』を見つけるための練習なんです。」

しかし、コロナ禍において私は改めてこのことを振り返り、「一体何のためにこの話をTAPの活動前にしていたのか」ということを考えました。そして気付いたことが2点あります。
まず一つは、この話をしている時点で既に「意味を教えている」こと、そしてもう一つは「TAPの活動に対する動機付けを行なっている」ということです。

TAPの活動自体に動機付けが必要!?

TAPでは、小学生から大学生、また企業研修を含めた社会人等、幅広い年齢層の方々を対象として活動を実施しています。そのため、自ら進んでTAPを受講しに来る人もいれば、授業や研修を通じて無理矢理、もしくは気乗りしないままに活動に参加している方も数多くいるのが実情です。もちろん、自ら進んでTAPを受講しにきてくださっている方々は、既にそれぞれに動機を持って参加してくださっているので、改めての動機付けはそこまで必要にはなりません。しかし、そうでない方々に対しては、活動の意味や意義をあらゆる角度から伝える事によって、活動の動機付けしていくことは非常に重要であり、決して間違えているとは言えないと思います。ただし、活動の本質を考えたときに、TAPのスタッフは常にその部分に葛藤を感じていることも事実です。いずれにせよ、私たちTAPのスタッフは、いつもそこにとても苦労しながら、活動の導入を行なっている、といっても過言ではないかもしれません。

様々な動機付け理論

これまでTAPの活動において、私たちTAPスタッフは、動機付けに関する様々な理論を、状況や対象に応じて用いてきました。ここで詳細を述べることはしませんが、代表的なところとしては、「期待理論、ゴール設定理論、社会認知理論」等ではないでしょうか。語弊を恐れずに、それぞれを簡潔に述べるとすれば、「やる気を引き出すためには“見返り”が必要」というのが期待理論で、金銭や物質的な報酬、賞賛や承認などの精神的な報酬も含まれています。また、「やる気を引き出すためには具体的なゴール・目標が必要」というのがゴール設定理論で、「具体的でチャレンジングな目標設定」「パフォーマンスへのフィードバック」「さらなる目標設定」等が含まれており、学校教育や企業研修においても、TAPの活動中に最も用いることが多い理論かもしれません。そして、「やる気を引き出すためには自己効力感が必要」というのが社会認知理論で、ここでの自己効力感とは、「自分がある状況において、必要な行動をうまく遂行できるか」ということに対する自己認知のことを指しています。つまり、自ら設定した目標に対して、それを達成して「期待した“見返り”を手に入れることができる」と自ら思えるかどうか、ということです。
TAPにおいては、これらの理論は「今後も変わらずに重要である」ことに間違いはないのですが、個人的に最も重要だと考えるのは、次に述べるプロソーシャル・モチベーションというものです。

※各諸理論の詳細はご自身で調べてみてください!!

TAPで重要となるプロソーシャル・モチベーション

プロソーシャル・モチベーションとは、「他者視点のモチベーション」と言われていて、簡潔に説明すると、「誰かのために何かをしたときに、相手が喜んでくれたことで、更に次への仕事・活動が意欲的・主体的に行えるようになる」という動機付け理論です。
玉川学園・玉川大学で大切にしている「第二里行者」という教えがあります。これは、元々は聖書の言葉で、「誰かに一里行くように強いられた時に、その後の道程に関しては自分の自発的な意思によって決められる」という意味です。つまり、「命令されたことをやって終わるだけでなく、自らの意思によってその先の道を行くことで、初めて新しい世界や発見、価値観との出会いがある」ということを、創設者の小原國芳先生は「その自発的な意思を持つことが、開拓の精神に繋がる」として、この教えを大切にされていたのです。TAPでは、よくAdventureやChallenge by Choiceの概念と関連付けて話をすることが多いのですが、先の期待理論、ゴール設定理論、社会認知理論のいずれの立場においても、この教えと関連付けて説明をすることができます。しかし、個人的に思うようになったのは、その本質はプロソーシャル・モチベーションにあるということです。

誰かが喜んでいる姿を見て、嬉しくなる
そしてその喜びが自らのモチベーションに変わる

何のために「もう一里行くのか」。無論、自分のためでもあります。しかし、もし私だったら、「もう一里行ったら、誰かが喜んでくれる」ということが一番のモチベーションになると思うのです。
最近のコロナ禍において、改めて「きっと、これまでも自分自身がTAPで最も大切にしてきたのは、このプロソーシャル・モチベーションなのではないか」と思うようになりました。新型コロナウイルスの感染予防に伴って、人との触れあいが難しい今日では、「誰かの喜ぶ姿を見て、嬉しくなること」や、「誰かが喜ぶ姿を見た喜びが、次へのモチベーションに変わる」といった体験が著しく失われてきています。しかし、こんな時代だからこそ、プロソーシャル・モチベーションを育むことができるTAPは、非常に重要であり、必要な活動だと感じているのです。そして、TAPを通じて育まれたプロソーシャル・モチベーションを通じて、「人と共に生きることの楽しさや喜び」、そして「生きることの楽しさ」を、多くの方々に感じていただけるTAPを、今後も創り続けていきたいと思いつつ、活動の再開を願う今日この頃です。皆様と共に玉川の丘で、共にTAPの活動ができることを心から楽しみにしております。

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