ColumnTAPコラム

2021.11.15

エージェンシーと自己冒険力

工藤 亘

TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。

本コラムでは、よく耳にするようになった「エージェンシー」を取り上げ、TAPと「自己冒険力」(工藤,2017)との関連性について述べてみたいと思います。
経済協力開発機構(OECD)は、未来の教育の枠組みとして「OECDラーニング・コンパス2030」を2019年に発表しました。この枠組みは、未知なる状況において、子ども達が意義のある、責任の持てる方法で自分の進むべき方向を見つけ、自分自身を導いていく必要性があることを強調するために用いたメタファーです。そして子ども達が2030年以降を生きていくために必要なコンピテンシーについて、幅広いビジョンを提供し、世界中の関係者が意見交換できるような共通言語と共通理解を示し、各国・地域・文化の状況に適合させる余地を残しています。

生徒エージェンシーと共同エージェンシー

OECDラーニング・コンパス2030では「生徒エージェンシー」を中心的な概念と位置付けつつ、併せて「共同エージェンシー」も重視しています。
生徒エージェンシーの概念は、生徒が自分自身の生活・人生と世界に対して好影響を与える能力と意志を持っているという考え方に根ざしています。生徒エージェンシー「目標設定し、振返り、責任を持って行為することによって変化を起こす力」と定義され、受け身ではなく主体的な決定と選択による行為者・形成者を目指すものと考えられています。また社会参画を通じて人々や物事、環境によりよい影響を与えるという責任感を持っていることを含んでいます。生徒エージェンシーは、進んでいくべき方向性を設定する力や、目標を達成するために求められる行動を特定する力を必要とするのです。
生徒エージェンシーは、自分一人で育まれるものではありません。教師やコミュニティ、親や仲間など、周囲との関係性の中で育まれていくのです。そのため共同エージェンシー「親や教師、コミュニティ、生徒同士の相互作用的、相互に支援し合うような関係性があって、共通の目標に向かう成長を支えるものとされ、教師や生徒が、教えたり学んだりする過程において共同制作者(Co-creators)となった時に生じる」とされています。
文部科学省はエージェンシーを「自ら考え、主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく姿勢・意欲」のことだと説明しています。また汐見(2021)は「当事者性」と訳し、「全てのことを当事者として考え、お互いの当事者性を尊重し合うという意味をこの言葉に込めたい」と述べています。

自己冒険力

これからの日本社会や世界を担っていく若者達が、夢を叶えるまでの険しい道のりを積極的に歩んで行くためには自己冒険力を育む必要だと考えます。自己冒険力とは、教師の指導(子どもの人間形成を目指し直接的・具体的に教師が働きかけること)と支導(子どもの主体性と目標を最大限に尊重し、教師と子どもとの双方向のやりとりを大切にした上で、子ども一人ひとりや集団の特性や状況、プロセス等を的確に判断し、子ども一人ひとりや集団の能力や特性を十分に発揮できるように支援しながら導くこと)により、子どもがアドベンチャーのできる環境について体験学習し、そこでの気づきや学びを子ども自身で試行錯誤しながら日常生活に活かし、人生を開拓していく力のことです。

アドベンチャーの理論と自己冒険力の関係性(工藤,2020)

教師は「指導と支導のバランス」をとりながら、生きる力(基礎的・汎用的能力、課題探求能力・社会的情動スキル)や21世紀型能力を視野に入れ、子ども達自身で自己指導力や自己冒険力を身に付けていくように体系的で継続的なカリキュラムの開発やプログラム開発をしていく必要があると考えます。TAPの活動や考え方は生徒エージェンシーに重複する点も多く、またファシリテーターとしての教師の関わり方は、共同エージェンシーと近似していると考えます。

TAPを土台としての生きる力(工藤,2020)

おわりに

以上を踏まえ、生徒エージェンシーと自己冒険力の考え方や、共同エージェンシーとTAPでのファシリテーターの役割には共通点も多く、非常に関連性が高いと考えます。
21世紀市民として日本や世界を担っていく若者達が、夢を叶えるまでの険しい道のりを歩むためには自己冒険力を育成することがTAPの使命と考えています。その使命を果たすためには、指導と支導のバランスを考慮し、若者達の冒険心や探究心の協働者・推進者・刺激者・支導者(ファシリテーター)である教員の養成や教師教育にTAPは尽力したいと考えます。予想不可能で対処困難な課題や正解のない問題に前向きに対応し、社会に貢献する気概を持った若者達を育成してことが我々教育に関わる者の重要な使命と考えます。

参考文献

・白井俊「OECDEducation2030プロジェクトが描く教育の未来-エージェンシー、資質・能力とカリキュラム-」ミネルヴァ書房、2020年
・汐見稔幸「教えから学びへ-教育にとって一番大切なこと-」河出新書、2021年

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