ColumnTAPコラム

2022.02.17

合意形成千思万考

川本 和孝

TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。

合意形成ができない世界

 2019年末に突如現れ、瞬く間に世界中を混沌の渦に巻き込んだ新型コロナウイルス感染症は、2022年になった現在においても猛威をふるい続けています。その影響は、私たちの日常生活にも大きな変化をもたらしてきましたが、この未曾有の脅威に対して、政治・教育・経済・日常生活など、様々な場面において様々な「決断」が、常に迫られてきました。しかし、その決断は簡単ではありませんでした。民主主義の原点は、「みんなのことはみんなで決める」ということですが、この未曾有の事態において、そのシステムが日本ではまるで機能しないことが、顕在化し続けてきたと感じています。「新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるための緊急事態宣言」が優先なのか、それとも「経済を活性化するために人流を止めないこと」が優先なのか、そうした二項対立の合意を得るためのプロセスは、政治のみならず至る場面で難航し続けてきています。
 もちろん、これは日本だけに言えることではないのかもしれません。現代社会においては、国際的な紛争、民族紛争、テロ等、互いの異なる文化や価値観を背景とした争いが後を絶ちません。こうした諸問題の抜本も、新型コロナウイルス感染症の対応と同じくして、異なる価値観を分かり合い、受け容れ合い、そして合意するということができていないことに原因があるのではないでしょうか。そのため、複雑に絡み合う価値観のすれ違いや、利権に関する争い等の解決のために、話合いや対話によって、お互いを認め合い、受け容れ、相互理解した上で、決定・合意形成していくことは、今まで以上に求められてきていると感じています。
 そのような中で、現行の特別活動の学習指導要領では、それ以前に用いられていた「集団決定」という表記が、「合意形成」という文言にその姿を変えています。これはつまり、国際社会における日本を取り巻く環境変化の中で、「合意形成」の必要性と重要性が増してきたことに他なりません。しかし、この「合意形成」の解釈は、論者によって変わってくるため、定義自体も定まっていないのが現状です。そこで、今回はそうした特別活動のみならず、TAPの活動場面においても重視される、「合意形成」について、考えてみようと思います。

そもそも合意形成とは何か

 合意形成研究に関する領域の第一人者の一人に、マサチューセッツ工科大学大学院で都市計画を専門とするローレンス・サスカインドが挙げられます。そのサスカインドは、合意形成の定義に関して次のように述べています。「合意形成は全員一致の同意を追求する過程である。これには、すべての利害関係者の関心・懸念を満たすための、あらゆる努力の後になされた提案の受け入れに同意するとき達成される」1)。ここで重要になるのは、利害関係者(Stakeholder)の存在です。日常生活の中で、利害関係者(Stakeholder)という言葉はあまり聞き慣れないかもしれませんが、それについて猪原(2015)は、当事者(影響力があり影響を受ける人)」、「観客(影響力はないが影響を受ける人)」、「専門家(影響力はあるが影響を受けない人)」、「野次馬(影響力もなく影響も受けない人)」という、4つのタイプに分類し、「影響を与える人/与えない人」、「影響を受ける人・受けない人」の存在を示唆しています。そして猪原は、合意形成の場面においては先のサスカインドが述べている通り、「全一致の同意を追求する過程」であるため、そこに関わる全ての人が「当事者」(またはそれに近い状態)でなければならない、ということを述べています2)。つまり、簡単に言ってしまえば、「問題に対してみんなで一致した答えを出していく際には、関わる人は(どのような関わり方であったとしても)全員が当事者であるべきだ」ということです。
 また、哲学者である一方で、国内における社会的合意形成に専門家として多く関わっている桑子(2011)は、合意形成とは「多様な意見の存在を承認し、それぞれの意見の根底にある価値を掘り起こして、その情報を共有して、解決策を創造するプロセス」3)であると述べています。桑子は、合意形成を導くためには「それぞれの意見の根底にある価値を掘り起こすことが必要」とした上で、「この価値はステークホルダーのインタレスト(関心・懸念)、言い換えればその意見を持っている理由であり、それを明らかにすることが解決の鍵を握っている」としています。つまり、合意形成のプロセスには、そこに関わる人たちの意見や価値観を引き出していくことが求められるということであり、そのためにもファシリテーターの役割が非常に重要になってくるということです。

TAPや特別活動において合意形成をどのように捉えればいいのか

 TAPの活動や特別活動における合意形成の場面においても、学級や学校で起こっていることを「自分事(当事者)」として捉え、同意を追求していく過程(サスカインドの定義の観点)は、同様であると考えます。また、それに桑子の述べた「意見の根底にある価値を掘り起こすこと」という点を加えて考えると、合意形成とは「意見の根底にある価値を掘り起こし、全員が当事者意識をもって全員一致の合意を目指すプロセスである」と言えます。この「意見の根底にある価値の掘り起こし」こそが、TAPにおけるファシリテーターの重要な役割の一つであり、また特別活動においても教師の重要な役割の一つとなるのです。そして、その異なる価値を相互理解していく合意形成のプロセスを、TAPや特別活動を通じて体験的に学習していくことによって、先にも述べたような新型コロナウイルス感染症の感染予防に関する諸問題や、国際社会における様々な問題を対話的に解決していくことができる、資質・能力が教育によって養われていくのではないでしょうか。
 ただし、サスカインドの定義にあるような「全員一致」というのは、学級・学校、そして社会においても中々起こりうることではありません。むしろ、学級や学校、TAPの活動の場面では、「全員一致」を目指すという意識が強くなりすぎると、集団内に同調圧力を生じさせる可能性も出てきます。そこで、その点においてはストラウス(2004)の定義を参照にしたいと思います。ストラウスは、「コンセンサスに達した状態とは、グループの全員がその結論を支持することに同意した状態を言う。各人がその結論を最善の策と思わなくても、実行にあたって支持できるものであればよい。誰も基本的な部分で妥協したと感じてはならないし、『ほぼ全員』ではコンセンサスにならない」4)。このストラウスの定義は、同意とは妥協や全員一致の同意を指しているのではなく、「全員一致の支持」という点が大きなポイントとなっています。つまり、全員が「全員一致」ではなかったとしても、最終的な決定に対して「全員が支持」できれば、それは合意形成と呼べるということです。そのため、TAPの活動や特別活動の場面においても、「全員一致」を目指すのではなく、「全員が支持」できるように支援していくことが、ファシリテーターや教師の重要なポイントとなるのではないでしょうか。
 このようにして、合意形成の定義に関しては、現状では「論者によって異なる」としか言えない状況です。しかし、今後もTAPや特別活動の研究を進めていく上で、この合意形成の定義を明らかにしていくことは、避けて通ることのできない道だと考えています。

【使用参考文献】

  1. Susskind, L.E., & Cruikshank, J.L., Breaking Robert’s Rules, Oxford, Oxford University Press, 2006. 邦訳:ローレンス・E・サスカインド/ジェフリー・L・クルックシャンク,『 コンセンサス・ビルディング入門』,城山英明・松浦正浩訳, 有斐閣, 2008.
  2. 「現代日本で求められる"合意形成学"とは」、TASC monthly / たばこ総合研究センター 編 (475):2015.7 p.13-19
  3. 桑子敏雄,「社会基盤整備での社会的合意形成のプロジェクト・マネジメント」, 猪原健弘,『 合意形成学』, 2011, p.179-202.
  4. デイビッド・ストラウス 齋藤聖美訳「チームが絶対うまくいく法」
    日本経済新聞社、 2004 p.76

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