ColumnTAPコラム

2022.06.17

VUCA⇔SCSCと「辛」+「一」⇒「幸」へ

工藤 亘

TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。

VUCA (変動性・不確実性・複雑性・不透明性)とOODAループ

VUCAとは、複雑で予測困難な時代を表した象徴的な言葉であり、初出は1987年のアメリカ陸軍戦略大学のカリキュラム開発資料とされています。
VUCAへの対応策として、米国軍事戦略家John Boyd氏が「OODAループ」を提唱しました。OODAループとは、観察Observe)、状況判断Orient)、意思決定Decide)、実行Act)の4つのステップを通して、先が読めない状態の中でも最善の選択を行い、実行に移していくための意思決定のプロセスの事です。OODAループは、現場レベルでリアルタイムのデータを収集・分析し、現状を整理した上で、意思決定を行うため、不確実性の高い現状でも、柔軟かつ迅速に対応が可能なため、VUCA時代に活用すべき思考・意思決定プロセスとして注目が高まっています。

SCSC(安定性・確実性・単純性・明瞭性)

確かに世の中は、変化が激しく、あらゆるものを取り巻く環境が複雑性を増し、想定外の事象が発生する将来予測が困難な時代です。しかし、人類の歴史は、常にVUCAであったのではないでしょうか?

<例>
気候変動・人類の大移動・新大陸発見・宗教改革・産業革命・ペリー来航・文書行政・大震災・戦争・パンデミック・COVID-19等々・・・現在もVUCAの真っ只中です。

世の中のニュースは、明るい話題よりも気が滅入る話題が多いため、共感疲労(辛い状況にいる人の苦しい気持ちに共感しすぎて、自分自身の心が疲れてしまう状態)になる人も増えているようです。相手の立場に立って考えたり、相手が感じている辛さを共感したりすることで、共感する人に不安や苦痛、さらに情緒的混乱を起こすことがあります。共感能力が高い人ほど共感疲労を起こしやすいとも考えられるため、教職・福祉職・看護職等の人や感受性の強い子ども達にも注意が必要かも知れません。
心理学用語に「ネガティビティバイアス」があります。「人はポジティブな情報よりも、ネガティブな情報に注意を向けやすく、記憶にも残りやすい性質を持つ」とういうものです。
例えば、過去の記憶でも幸福な思い出より、辛い経験の方が鮮明に記憶される傾向があります。リスク回避のために生物が進化の過程で身につけたものともいわれ、生物が生き抜くためには、目の前のリスクや問題に注意を向けることが重要だったからです。
青砥(2021)は、「ネガティビティバイアスが、ダメだなと悲観する必要もなく、むしろそれが自然な反応であり、かつ自分を改善するための学び、成長の機会であると認識する」ことが重要だと述べています。
VUCAのネガティブな側面に対して、その反対の意味や状態について考えてみました。それがSCSC(スクスク)です。人類はこれまでもSCSC(安定性・確実性・単純性・明瞭性)を求めて試行錯誤を繰り返し、OODAループや体験学習サイクル等を駆使しながら、自分で考え行動し、成長や発展をしてきたのではないでしょうか!

VUCA時代だからこそ、TAPを通じて困難な環境でも自分で考え、行動し、成長できる人、豊かな人生を開拓していく気概をもった人を育てたいのです!

VUCA⇔SCSC(工藤,2022)

「辛」 +「一」⇒「幸」へ

辛いことに対して、何か一工夫することで、幸せに変わるかもしれません!

例えば、自身の考え方・捉え方、行動・言動を少し変える、他者から一言アドバスを得ること、少し協力してもらうこと等・・前野(2013)によれば、日本語の「幸せ」=元々は「し合わせ」。「し」は、動詞「する」の連用形です。つまり、何か二つの動作をして、合わせること≒めぐり合わせであり、何かをしている自分に別の何かが重なり合うことなのです。
ポジティブ心理学では、「人は他の人と一緒にポジティブな感情を共有すると関係性が高まり、幸せになる」としています。VUCA時代だからこそ、日々の生活で感じるポジティブな感情や小さな幸せを見つけ、それを皆で共有できるといいですね。

最後に、「幸せ」に関して教師や大人に知って欲しい研究(露口)を紹介します!

・日本の子どもの幸せの現状=客観的幸福度>主観的幸福感
・子どもの主観的幸福感は、周囲の人々との対人関係によって強く規定される
・子どもの主観的幸福感は、教師の主観的幸福感と相関している

<学校における幸福感の決定要因>
・友人・教師・地域住民との対人関係の影響が大きい
・教師の主観的幸福感と相関

「教師の怒りは子ども達の怒りに、教師の不安は子ども達の不安に、教師の幸福は子ども達の幸福に、それぞれ連動する」ようです。 したがって、子どもの幸福感を高めるには、教師をはじめ周囲の大人の幸福感を高める必要があるのではないでしょうか! 子どもや大人もスクスク育ち、教師も子どもも

“ワクワクして登校し、明日への希望を持って下校する”

そんな幸せな生活を送りたいですね!

参考文献
入江仁之「OODAループ思考入門」ダイヤモンド社、2019年
Barbara L.Fredrickson著、植木理恵監修、高橋由紀子訳「ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則」日本実業出版社、2010年
青砥瑞人「HAPPY STRESS」SB Creative、2021年
前野隆司「幸せのメカニズム」講談社現代新書、2013年
露口健司『子どもの「幸せ」の現状』教職研修2020.4、教育開発研究所、2020年
露口健司『学校におけるソーシャル・キャピタルと主観的幸福感-「つながり」は子どもと保護者を幸せにできるのか?』愛媛大学教育学部紀要64号、2017年
露口健司『子どもの「幸せ」の現状』教職研修2020.4、教育開発研究所、2020年

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