ColumnTAPコラム
気候変動から何を学ぶか?
そして、我々はアドベンチャーを
通じて
持続可能な社会を築くことができるか?
村井伸二Shin
TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。
この夏も猛暑が続き熱中症が増加、ゲリラ豪雨や台風発生時には局地で記録的な大雨を降らし、洪水などの水害といった自然災害が各地で起こっています。世界規模では今もなお猛威を奮っているCOVID-19や山間部で起きる火事など本当に大変なことが頻発していますね。これらは地球温暖化などの気候変動といったことが原因だと考えられます。我々はこれらが大変なことを知っていますし、気をつけなければとも感じているとは思います。ただ本当に自分ごととして考えている、そして行動に移しているのでしょうか? これは我々人間が招いた災害であることとして認識しなければならないはずですよね。
ところで、Netflixの「ドント・ルック・アップ」という映画をご覧になったでしょうか。唐突にしかも、会員さん限定の話しですからすいません。私を知っているみなさんはまた映画ネタがきたよとお思いでしょう。
ネタバレはしませんが、この映画のストーリーはある研究者(天文学者)であるランドール・ミンディ(レオナルド・ディカプリオさん)と博士課程の学生ケイト・ディビアスキー(ジェニファー・ローレンスさん)たちが、これから地球に衝突しようとする彗星を発見し世間に危機的状況であることを訴えようとします。しかし、政府やメディアといった世界はこの事実を真面目に取り扱ってくれないという内容です。シニカルなコメディタッチなのですがとても意味深いものであると感じます。
まず、この名俳優たちが出ているだけで見てしまう作品です(個人的見解です)。少し余談ですが、ディカプリオさんはロサンゼルスの大都会で生まれたのですが、幼少期から自然博物館に行って絶滅危惧種に興味をもつなど環境に関心があったそうです。1998年(当時24歳)には「レオナルド・ディカプリオ財団」を設立して、気候変動、再生可能エネルギー、そして野生動物保護に対してプロジェクトや寄付を行っています。本当に余談でしたね。
しかも、この映画の監督であるアダム・マッケイさんは195カ国が参加する政府間組織である「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書において、気候は今よりも1.5度上昇することで世界的な食糧危機や生態系の崩壊が示されていることを知ったそうです。そのために映画にはその気候変動の危機としての監督自身の想いが散りばめられているそうなのです(確かにそうでした)。地球に起こりうる危機(彗星の衝突)を気候変動による地球の危機とで比喩的に重ね合わせられているような気がします。
これ以上何か書いてしまうとネタバレしそうなので止めますね。もしも機会がありましたら、この映画を見て私とディスカッションしてくれたら、これも気候変動に対する意識変革といった行動になるのかもしれませんね。
みなさん、SDGsと言えば、「聞いたことがある。」「あっ、社長さんが胸に着けてるドーナッツ型のバッチ!」など認知度は上がってきている? のではないでしょうか。このSDGs(Sustainable Development Goals)は持続可能な開発目標と言われていますね。
ざっくり言うと17のテーマと165のターゲットがあり、それらの問題を2030年までに解決しましょうと国連で定められたものです。これらのテーマには環境問題だけでなく、人権やジェンダーそして貧困問題など様々なテーマが含められていることです。つまり、一つの課題に目を向けるだけでなく、さまざまな分野をホリスティック(全体的に)に捉えて協働していかないと目標をクリアできないよということですね。
企業だけでなく、教育などを中心にカーボンニュートラルや持続可能な社会といった言葉が周知され、CMやSNSなどのメディアでも多く聞かれるようになりました。我々の日常生活においてもコンビニやスーパーに買い物に行ったら「マイバックを持っていこうか」とか、「ペットボトルをやめて『マイボトル』にしよ」とか「プラスティックゼロを目指そう」といった具体的な行動になっていることはとても良いことだと思っています。
ただ、本当に我々はこの問題の本質に向き合っているのでしょうか。特に私は日々の生活に翻弄され、しかも、大事なのは仕事の対価としていくら稼いだかとか、より良い生活を第一にと考えてしまいます。「贅沢はいかん」とか言いながらも「これ買っちゃおう」など本当は必要がないのかもしれないものを買ってしまいますね(私の問題です)。今この瞬間にも北極の氷が解けてシロクマの足場がなくなってきているのを知っているのに。。。
言い換えると、私の行動は地球といった自然環境を無視した人間中心社会的であるとも考えられます。しかも、コロナ禍という状況では「命か経済か」といった二者択一みたいになってしまうこともありました(本当に大変な時期だと思います)。このままでは本当に持続可能な社会に向け立ちはだかる課題に対して、本当に自分ごととしているのかは疑問があります。つまり、ミンディ先生やディビアスキーさんの注意・警告にちゃんと耳を傾けているのかということだと思います。
この映画を見ていると環境アクティビスト(活動家)や研究者たちと重ねて見てしまいます。環境活動家なんて聞くと、ちょっと過激な?というイメージがあるかもしれません。しかし、ちゃんとした科学的な知見から問題定義をしてくれています。
最近で有名なのはグレタ・トゥーンベリさんがいますね。彼女は学校で勉強していても地球が一向に良くならないことを理由に学校には行かないというストライキを始めます(これが良いことだと言っているのではありません)。孤独な運動でしたが世界中の多くの同世代が賛同し、環境に目を向けて行動に移す人たちに影響を与え続けています。スウェーデンからCO2排出が大きいとされる飛行機には乗らず、電車とヨットでニューヨークの国連まで移動して気候変動の危機を訴えたことは有名な話しですね。
2000年代には「不都合な真実」(映画と書籍)で有名になったアル・ゴアさんがいます。アメリカ合衆国、クリントン政権時の副大統領です。彼は大学時代から地球温暖化に興味があり、研究活動を通じて世界に積極的にメッセージを発信している環境活動家の一人です。20年以上前から地球の気温が高くなると大変なことが起きるよと提唱してくれていたのです。しかし、今も地球温度の上昇は止まっていません。もちろん彼は今でも積極的かつ継続的に活動され、世界の環境活動家に多大な影響を与えています。
1992年に「環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)」が開かれました。そこで弱冠小学生だったセヴァン・スズキさんが伝説のスピーチを行ったことは有名ですね。「大人のみなさん、直す方法を知らないのに地球を壊さないで」「何を言うかではなく何を行動するかです」といったインパクトがある言葉はサミットに参加している世界各国の代表者だけでなく、私のような人間の心にも大きく響きました。彼女は現在、カナダでファーストネーション(先住民)の方と結婚をされ、今でも環境活動を続けられています。
少し遡って1960年代にはアル・ゴアさんも尊敬していたというレイチェル・カーソンさんがいますね。みなさんは『センス・オブ・ワンダー』と聞くと「あ〜」と思い出すのではないでしょうか。この本は1990年代に発刊されたものですが、彼女の代表作と言えばやはり『沈黙の春』ではないでしょうか。大量生産・消費といった農業政策の中で、殺虫剤や農薬(DDT)が使用されていました。しかし、その毒性が土壌を汚染し、生態系に影響を及ぼすことについて、今よりも経済発展優位である時代に勇気を出して訴えた方です。私のような環境教育を勉強している人間にはバイブル的な本であると言えます。
今回はメジャーな環境研究・活動者しか紹介していませんが、たくさんの方々が時代と共に警笛を鳴らし続けてくれています。「ドント・ルック・アップ」を見て改めて考えさせられる気がします。
昨今、SNSでは簡単に様々な情報を大量に得られるようになりました。フェイクニュースなんて言葉が飛び出し、写真を加工したら私みたいな人間でも俳優になれちゃったりできる時代なんですよね(映画のシーンなどで俳優の顔を加工して自分のものと変えられるなんて聞いたことがあります。。。本当ですか? 怖い)。こんな時代ですから真実が何であり、何を信じたら分からなくなるのも理解できます。しかし、気候変動はフェイクニュースや加工したりできない大きな問題ですよね。
それはさておき、こんな時代だからこそ想像力を発揮して、持続可能な社会に向けてどう協働しながら課題解決ができるかは我々次第ですね。
さあ、それではアドベンチャーを志している我々は何ができるのでしょうか。アドベンチャープログラムは人との関わりの中で個々の内省力や他者との対人関係力の向上を目指しています。もっと我々は人間環境といった環境だけでなく自然環境も踏まえた環境まで視野を広げながら、つまりSDGsを意識したプログラムをしてみてはどうでしょうか。
コロナ禍では改めて人同士の温もりが大事であり、オンラインだけでなく、改めて顔を見て直接的である対面コミュニケーションの重要性が明らかになりました。さらに、グローバルという発展とともに、ウイルスも生き残りをかけて動物や人間を媒介し、パンデミックを引き起こしてしまうことも分かりました。我々は地球規模の自然環境も踏まえて課題意識を持ちながら、主体的に行動していかなければならないということではないでしょうか。
これからも定期的に自然災害は起こっていくと考えられます。災害対策はもちろんのことですが、その原因になっている気候変動にもう一度目を向けて、アドベンチャーがこの大きな課題にどう貢献できるのかを考えていきたいと私は思っています。 ビル・ゲイツさんは以前、地球の将来に対して諦めないで行動しつづけることで「まだ間に合うと私は楽観的な考えを持っている」とおっしゃっていました(数年前でしたが)。つまり、我々は「ドント(Don’t)」ではなく「ルック・アップ(Look up)(上を向いて、元気に、そして課題に対して向き合う)」して、地球と共にポジティブに生きていきたいですね。
そう、自然は人間を癒してくれますよね。それに感謝しながら、では逆に人間はどう自然や地球を癒すことができるのか? でないとGive and take, Win-winにならないですものね。人間は人工vs自然という捉え方ではなく、自然の一部、共同体として考えていきたいものです。
さあみなさん、アドベンチャーを通じて持続可能な社会を築いていくには何ができるのか? 一緒に考えて行動していきませんか。まだ間に合うと私も思いたいのです。
そういえば、機動戦士ガンダムやインターステラーの世界では人類はもう地球に住んでいませんでしたっけね。
みなさん急がないと。。。
参考資料・写真提供
Ethical Choice 「「ドント・ルック・アップ」は気候変動に対する社会への風刺映画か」
https://myethicalchoice.com/journal/news/dont-look-up/(2022年9月10日閲覧)
Wired 映画『ドント・ルック・アップ』からは、気候変動に立ち向かう科学者たちの「やりきれなさ」が浮かび上がってくる
https://wired.jp/2022/01/10/dont-look-up-climate-scientists/(2022年9月10日閲覧)
Vogue 「気候変動は現実。脚本のようにハッピーエンドに書き換えることはできない」──環境問題に挑みつづける俳優、レオナルド・ディカプリオ。【社会変化を率いるセレブたち】
https://www.vogue.co.jp/change/article/celebrities-driving-social-change-leonardo-dicaprio(2022年9月10日閲覧)
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