ColumnTAPコラム

2023.02.10

エンゲージメント諸々

工藤 亘

TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。

2023年1月18日(水)、TAPセンターのインターン(大学生)ともに今年度最後の定期研修会を実施しました。最終回ということもあり、主なテーマは「今年度の振り返り」とし、TAPセンターでの様々な活動や研修を通して、どんなことを感じ、何を学んだのかを共有することができました。振り返りのキーワードとして「エンゲージメント」を用いましたが、インターンにとって「エンゲージメント」という言葉は聞いたことはあるけど、深く考えたことはなかったようです。

1.エンゲージメントについて

エンゲージメントには「従業員エンゲージメント」と「ワーク・エンゲージメント」があります。新居・松林(2018)は従業員エンゲージメントを「企業・組織と個々の社員の間の関わり合い。組織に対する自発的な貢献意欲」1)とし、ワーク・エンゲージメントを「『仕事の内容』と個々の社員の関わり合い。主体的に仕事に取り組んでいる心理状態を表したもの」2)としています。本コラムでは、新居・松林(2018)に倣って両者を一括りとして扱い、エンゲージメントの定義「組織や職務との関係性に基づく自主的貢献意欲」3)を支持することにします。
ちなみにエンゲージメント研究の祖と言われるKahn(1990)は、ワーク・エンゲージメントを「仕事の遂行過程において、身体的(行動的)、認知的、感情的に自分自身を駆使して表現している行動」4)としています。さらにKahnの研究では心理的安全性の重要性が説かれ、Edomondson(1999)の「心理的安全性」5)の研究に影響を与えたようです。

ではなぜ、世界中でエンゲージメントが重要視されているのでしょうか?それはエンゲージメントが高い組織では、「収益性・生産性・顧客満足度が高い、離職率・欠勤率が低い、質の高いサービスが提供できる、製品の欠陥が少ない、イノベーションにも強い」等、エンゲージメントと企業の業績向上との相関性が判明したからです。エンゲージメントが高い状態とは「働く人たち自身が、仕事の意味をよく理解し、組織に愛着を持ち、そのビジョンのために自発的に貢献しようとする状態」6)であり、個人の力の総和以上の力を発揮することができるようです。
また、Schaufeli & Bakker(2010)によれば「仕事に対するエンゲージメントの高い人は、バーンアウトになりにくく、そしてワーカホリックとは異なり、身体的・精神的・社会的に健康(Well-being)である」7)ことが証明されています。Well-being に関連すると、ポジティブ心理学の第一人者であるSeligman(2012)が提唱したウェルビーイング理論には5つの要素「PARMA」8)(ポジティブ感情、エンゲージメント、意味・意義、達成、関係性)があり、充実して良き人生を送るためにもエンゲージメントは必要となるようです。
以上のように、エンゲージメントは企業や組織にとってだけではなく、個人としての働き甲斐や健康、生き方にも大きく影響を与えています。

2.Q12を用いたTAPインターンの振り返り

組織のエンゲージメントを測定するツールとして、アメリカの心理学者Frank L. Schmidtは、世論調査会社・Gallup社とともに「Q12」9)という従業員エンゲージメントサーベイを開発しました。これは従業員一人ひとりがその会社の目指す方向性を知り、協力し、信頼関係を構築しつつ、自らも成長を目指すこと、つまり、エンゲージメントをどの程度抱いているかを判断するツールです。詳細は『これが答えだ!-部下の潜在能力を引き出す12の質問-』等をご参照下さい。
先述したTAPセンターの定期研修会では「エンゲージメント」をキーワードに、Q12をTAPインターン組織や役割に置き換えて振り返ることとしました。質問内容は以下の通りで、各項目5段階で自己評価してもらいました。

Q1:TAPインターンの組織で自分が何を期待されているのかを知っている
Q2:TAPインターンとしての役割を上手く行うために必要な材料や道具を与えられている
Q3:TAPインターンとして最も得意なことをする機会を毎日与えられている
Q4:この1週間の内に、TAPインターンとしての役割を果たしたと認められたり、褒められたりした
Q5:TAPインターンの誰かが、自分を一人の人間として気にかけてくれている
Q6:TAPインターンの誰かが自分の成長を促してくれる
Q7:TAPインターンとして自分の意見が尊重されているようだ
Q8:TAPインターンの使命や目的が、自分の役割は重要だと感じさせてくれる
Q9:TAPインターンは真剣に質の高い役割を果たそうとしている
Q10:TAPインターン内に親友がいる
Q11:この6カ月の内に、TAPインターンの誰かが自分の進歩について話してくれた
Q12:この1年の内に、TAPインターンとしての役割について学び、成長する機会があった

TAPインターンは、定期研修会やTAPセンターでの経験をQ12の視点を基にしながら振り返ることができました。小グループに分かれてシェアリングをしましたが、なかなか奥深く、意味深な言葉が飛び交っていました。これを機にTAPインターン組織の中に風が吹き、心地よい刺激となってくれれば幸いです。
*読者の皆さんは、上記の質問を自身の所属している組織や職場に置き換えて考えてみて下さい!どんなことを感じますか??

3.マネジャーとして

一方で、TAPセンターを預かる身としては、当センタースタッフのエンゲージメントについて改めて考えさせられるQ12だと、自分で実施しながら考えていました。これは筆者だけではなく、世のマネジャー全員にも言えるのではないでしょうか?
組織や職場には、多様な価値観や豊かな個性を持ち、それぞれ強みと弱みを持ち合わせたメンバーがいて、チームをつくり協働しています。「人はなぜチームをつくるのか。それはそれぞれの長所を合わせ、お互いのスキルを補完し合うため」10)と言っている人がいます。
個人の成長や働き甲斐を高めることがチームや組織の価値を高め、チームや組織の成長が個人の成長や働き甲斐を高めることができれば、個人とチームや組織がエンゲージメントされている環境といえるのではないでしょうか。(図1)

図1.個人とチームや組織がエンゲージメントされている環境

エンゲージメントを高めるには、メンバーそれぞれの仕事への志向性に沿った環境や成長するための機会を提供する必要もあります。(働きやすさ)そして多様な価値観を尊重したうえで、自分たちは何をしたいか、どうなりたいのかを共有し、対話することで労働生産性が向上すると考えます。(図2)

図2.エンゲージメントと労働生産性

マネジャーは、メンバーが能力を最大限に発揮できる環境や仕事を楽しめる環境を整えること(「エンゲージマネジメント」)11)も大切な役割です。このエンゲージマネジメントが浸透すると、メンバーは「自分で考え、その考えを発信し、仕事に対する責任感が生まれ、仕事にやりがいを見出すようになり、その結果として仕事が楽しくなる」12)のではないでしょうか。個人・チームや組織・社会もエンゲージメントされ、三方良しで誰もがWell-beingな生き方を目指したいものです。
SDGsの目標には「8.働きがいも経済成長も」、「3.すべての人に健康と福祉を」、「4.質の高い教育をみんなに」等があります。人々の幸せな生活やお金を稼ぐための仕事を保つためにも健康や福祉は必要であり、そうしたことを全ての人々が学ぶ機会や環境があるといいですよね! 
さらに教育心理学の分野では「学びのエンゲージメント」も研究されていて、櫻井(2020)は「課題に没頭して取り組んでいる心理状態で、言い換えれば、興味や楽しさを感じながら気持ちを課題に集中させ、その解決に向けて持続的に努力している心理状態」13)を学びのエンゲージメントと定義しています。子どもから大人まで、学ぶことや働くこともエンゲージメントされているといいですね!
そのためにTAPには何ができるか?? Adventureは続く!!

引用文献

1)2)
新居佳英、松林博文「組織の未来はエンゲージメントで決まる」栄治出版、2018年、p.39
3)前掲書1)、p.4
4)Kahn, W. K. (1990). Psychological conditions of personal engagement and disengagement at work. Academy of Management Journal, 33, 692- 724.
5)Edmondson,A.(1999)Psychological Safety and Learning Behavior in work Teams.Administrative Science Quarterly,44,pp.350-383.
6)前掲書1)、p.36
7)Schaufeli, W. B., & Bakker, A. B. (2010). The conceptualization and measurement of work engagement. In A. B. Bakker & M. P. Leiter (Eds.), Work Engagement: A handbook of essential theory and research (pp.10-24). New York: Psychology Press.
8)Seligman,M.E.P.,2012,Flourish.Atria Books.(宇野カオリ(訳),2014,『ポジティブ心理学の挑戦“幸福”から“持続的幸福”へ』、ディスカバー・トゥエンティワン)pp.33-37
9)Court Coffman & Gabriel Gonzalez-Molina、加賀山卓朗訳、金井壽宏解説「これが答えだ!-部下の潜在能力を引き出す12の質問-」日本経済新聞出版社、2003年pp.114-127
10)Daniel Coyle『最強チームをつくる方法』かんき出版、2018年、p.201
11)清水康裕「エンゲージマネジメント」ぱる出版、2022年、p.4
12)前掲書11)、p.87 13)櫻井茂男「学びの『エンゲージメント』」図書文化、2020年、p.61

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