ColumnTAPコラム
認知的徒弟制と一皮むけた経験
工藤 亘
TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。
最近読んだ本で教育学部の大豆生田啓友監修『子どもが中心の「共主体」の保育へ』の中に気になるワード「認知的徒弟制」を見つけました。この概念は1980年代からCollinsらをはじめとして企業や専門職(医療・教育等)で既に導入されています。人材育成の視点からTAPスタッフ・インターン生、教師を目指す学生を育てるためには良いヒントと出逢ったので考えてみたいと思います!
1.まずは徒弟制度について
徒弟制は手工業、商業その他の職業または芸術、芸能の活動において、親方または教師に指導されて実地の訓練を通じて積み重ねる学習の制度。とくに手工業の技能を世代から世代に伝授していくために、手工業経営やその同職組合によって技能教育が制度化された。(日本大百科全書より)
伝統的な徒弟制では、弟子入りをして学習するのが基本。特に職人の世界では、親方の仕事を見て弟子たちが技を盗んでいました。 親方は弟子に仕事の方法を細かく教えるのではなく、弟子が親方の仕事を見て真似をし、試行錯誤をしながら学びます。これを何度も繰り返しながら技を修得し、弟子は一人前の職人として成長します。
2.次に認知的徒弟制について
認知的徒弟制は、熟達者(親方)と学習者(弟子)の間で古くから行われてきた徒弟制の職業技術訓練に着目し、その学習プロセスを認知的な観点から理論化したものです。学習者と熟達者は、①モデリング⇒②コーチング⇒③スキャフォールディング⇒④フェーディングの4段階を踏むことで、効果的かつ効率的に知識・技能の修得・継承ができるとされています。
第1段階のモデリングでは、熟達者が学習者に模範を示し、学習者はそれを観察して視覚的に把握します。
第2段階のコーチングでは、熟達者が学習者のレベルに合った課題を与え、ヒントや助言を与えながら模範の通りにできるよう指導します。学習者は何度も失敗しながら上達していきます。
第3段階のスキャフォールディング(足場づくり)はある程度のことができるようになった時に進みます。この段階で行うのは、今後、学習者が自分自身でさらに上達の道を歩んでいけるようにするための支援。熟達者は学習者に適度な課題の達成を求め、支援し、できるようになるにつれて足場を外していきます。
第4段階のフェーディングでは、熟達者は学習者が独り立ちできるように少しずつ関わりを減らし、退いていきます。(図1参照)
松尾ら(2023)は、認知的徒弟制の認知を「人間が物事を知覚・判断・理解・解釈する認知能力を高めること」1)とし、徒弟制は職場において「経験豊富なメンバーが経験の浅いメンバーを指導すること」2)としています。そして認知的徒弟制を「高度な認知能力を必要とする仕事の進め方を、経験者が非経験者に指導する方法」3)と説明しています。さらに「認知的徒弟制度に基づく指導プロセス」4)を6ステップで示しています。(図2参照)
3.経験学習サイクルと認知的徒弟制度について
さらに松尾ら(2023)は、経験学習サイクルに認知的徒弟制の6ステップを重ね合わせており、専門職やTAPスタッフ及びTAPインターンの育成等に示唆を与えてくれます。(図3参照)
4.最後に一皮むける経験とTAP
金井ら(2001)は、リーダーシップ開発において「一皮むける経験」5)の重要性を説いています。また金井(2002)は、『「ひとの成長は、漠然と漸進的にずっとゆっくり進むのではなく、ここぞというときに大きなジャンプがある」というイメージが込められており、「一皮むけた経験」とは、それほど一皮むける度合いが強かった経験、インパクトが大きかった経験」』6)を指しています。
部下をはじめ人がビジネスにおいて成長する法則としてよく「7:2:1の法則」が用いられています。仕事に必要な事柄の7割を「仕事上の経験」、2割を「上司や先輩からの助言やフィードバック」、1割を「研修等のトレーニング」から学ぶとされています。
TAPを通じた研修で学生や社会人の人材育成に携わる者の一人として、TAPが、互いにフィードバックしやすい環境づくりに貢献し、一皮むける経験の一つになるように心掛けたいと考えています!そして、TAPでの認知的徒弟制度を研究し、現場で応用・転用しながらこれからの日本や世界を担う若者たちの人材育成に努めていきたいと考えています!なぜなら、「進みつつある教師のみ、人に教える権利あり!」であり、「学ぶことをやめた人間には、過去の世界を生きる術しか残されていない」からです。
「人材育成」のアドベンチャーは続く!
引用文献
1)2)3)松尾睦・築部卓郎「看護師・医師を育てる経験学習支援」医学書院、2023年、p.6
4)前掲書1)、p.16
5)金井壽宏・古野庸一『「一皮むける経験」とリーダーシップ開発』一橋ビジネスレビュー、東洋経済新報社、2001年、p.49
6)金井壽宏『仕事で「一皮むける」』光文社新書、2002年、pp.29-30
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