ColumnTAPコラム
TAPで求められる「つながり」について考える
光川 鷹
TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。
近年、単身世帯の増加や新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響による人と人との関わりの減少など、人々の交流の希薄化が課題とされています。令和5年版厚生労働白書第1部には、「つながり・支え合いのある地域共生社会」1)というタイトルのもと、全ての人々が生きがいを共に創り、高め合うことができる社会の実現に向けた展望が述べられています。コロナ禍で言われていた「ソーシャルディスタンス」は、人と人との距離を制限することによって感染拡大を防止する取り組みでした。近年、これほどまでに人との交流が制限される経験はなかったように思います。
第19、21代アメリカ公衆衛生局長官を務めたヴィヴェック医学博士は「『ソーシャルディスタンシング』という言葉遣いは適切でないことが明らかになっていった」2)と述べています。また、「COVID-19の感染拡大を食い止めるには『フィジカル・ディスタンシング(物理的距離の確保)』は必要だが、社会的には、この危機を脱して友人や家族との距離をこれまで以上に縮めることができる可能性が生まれていた」3)と書かれています。このような危機に際して、ソーシャルディスタンシングではなくフィジカル・ディスタンシングといった言葉遣いが適切であることは非常に納得感がありました。こうした中で過ごした私たちにとって、これまでの社会的なつながりやこれから生まれるつながりというものに触れていくことは重要になるのではないかと思います。
先に示したヴィヴェックが著した『孤独の本質 つながりの力 見過ごされてきた「健康課題」を解き明かす』という本では、つながり合うことがより良く生きられることであると、明瞭に記されていました。この本に登場するつながりに関する記載を一部ご紹介したいと思います。
本書では、孤独とは「自分が欲する社会とのつながりが欠けている」4)という主観的な感情とされています。似たような意味で孤立という言葉がありますが、これは客観的な感情のもと、自ら進んで周りと距離を置き、1人になることを意味しています。そのため、孤独(主観的)と孤立(客観的)は異なる意味をもつ言葉として整理がなされています。
また、人類の進化という点から孤独に着目した研究では、人間の身体的な強さだけではなく社会集団の中でつながりを築くことによって共同作業を行い、生存確率を高めていたとされています。さらに、つながりはそれだけではなく、「イノベーションの確率を高め、種の創造性を強化するもの」5)であったと紹介されています。
このように、人類の進化の過程においては「人とつながり合うこと」6)が初期設定として組み込まれているのです。であるからこそ、孤独は社会的なつながりが欠けていることを伝える「警告機能」7)の働きを持っているとされています。
以上のような、つながりに関する記載からTAPに求められることについて考えたことを紹介したいと思います。
TAPでのプログラムの目的は、主に「関係性作り」や「横のつながり」とされることが多いです。周りとのつながりを強めていくためには、自分の発する言葉や行動、態度が仲間にどのような影響を与えていたのか、に気づいていくことやそれらのフィードバックをもらう中で、自身の影響力を知ることが大切になります。そのようなプロセスの中でグループに自分がいる意味や貢献の仕方を少しずつ理解していくのではないかと思っています。プログラムの振り返りでよく耳にするのが「一人ではできなかったけど、みんながいたから挑戦することができた」というセリフです。これは、周りの存在と自分自身を結びつけた言葉のように受けとめられ、まさに人と人がつながることによって生まれる気づきであろうと思われます。このような学びがあるからこそ、人とつながりたいという気持ちは芽生えやすくなるように思います。
最後に、ヴィヴェックは先程紹介した書籍に込めた願いについて以下のように語っています。8)
社会における自分の位置づけへの認識が深まること、そして互いの人生に自分が重要な役割を果たしているのだと再認識して周りに手を差し伸べていくきっかけや後押しになることを願う。
ここに記されていることは、まさにTAPを通して私自身が描きたい姿なのだと深く共鳴した文章です。人類にとってつながりは欠かすことができない初期設定であるからこそ、TAPの体験によってつながりのきっかけとなってくれればうれしい限りです。1人でも多くの人とのつながりへ、またプログラムに向かおうと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献
1) 厚生労働省「令和5年度厚生労働白書」2023年、
2) ヴィヴェック・H・マーシー著『孤独の本質 つながりの力 見過ごされてきた「健康課題」を解き明かす』英治出版株式会社、2023年、4頁
3) 前掲書2)、4-5頁
4) 前掲書2)、40頁
5) 前掲書2)、69頁
6) 前掲書2)、70頁
7) 前掲書2)、40頁
8) 前掲書2)、30頁
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