ColumnTAPコラム
BANI時代のウェルビーイングとイマジネイティブ&クリエイティブ・クラス
工藤 亘
TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。
1.BANI時代
時代を象徴する言葉として、1990年代の冷戦時代にはVUCAというキーワードが生まれ、その後TUNA、RUPT、BANIという言葉もできました。VUCA から30年以上が経つ中で、カリフォルニア大学のJamais Caisco教授は、新型コロナウイルスのパンデミックが引き起こした現象を反映し、現代に合う概念として「BANI」を提唱しました。
BANI時代は常に様々な脆弱性に脅かされ、昨日成功したノウハウが今日通用するとは限らないと言われています。
帝国データバンクの「2024年の注目キーワードに関するアンケート調査」の結果によると、 「ロシア・ウクライナ情勢」が73.2%でトップ、物価高や人手不足関連が上位に並び、「ロシア・ウクライナ情勢」「中東情勢」「チャイナリスク」といった『海外情勢』をキーワードとして捉える企業は93.7%にのぼっています。
2024年の注目キーワードトップ5
1位.ロシア・ウクライナ情勢 | 73.2% |
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2位.物価(インフレ) | 64.7% |
3位.人手不足・人財確保 | 63.6% |
4位.中東情勢(ハマス・イスラエルの紛争) | 62.2% |
5位.財政政策(増税など) | 59.1% |
※アンケート期間は2023年11月10日~14日、有効回答企業数は1,090社(インターネット調査)
※調査機関:株式会社帝国データバンク
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p231106.html
世界中で新型コロナウイルスのパンデミックは収束し、明るい出来事やニュースもある一方で、戦争が起こり、非人道的な行為や飢餓に苦しむ人々、また地震や津波、山火事や洪水等の映像をよく目にします。この状態はウェルビーイングな状態とは言えません。BANI時代を象徴しているのでしょうか・・・
2. ウェルビーイング諸々
世界保健機関(WHO)は1948年4月7日に、すべての人々の健康を増進し保護するため互いに他の国々と協力する目的で設立されました。WHO憲章において、健康の定義として、病気の有無ではなく、肉体的、精神的、社会的に満たされた状態にあることを掲げ、 人種、宗教、政治信条や経済的・社会的条件によって差別されることなく、最高水準の健康に恵まれることが基本的人権であると謳っています。
WHOでは、ウェルビーイングのことを個人や社会のよい状態。健康と同じように日常生活の一要素であり、社会的、経済的、環境的な状況によって決定されると紹介しています。この定義に則り、世界を俯瞰してみると我々はill-being(繁栄や幸福、健康の欠如)な状態のように思えます・・・
話が変わりますが、M大学が2024年4月にウェルビーイング学部を開設するとして、開設記念公開シンポジウムを3月末に開催しました。テーマは「ウェルビーイング学とは何か?〜世界の幸せをカタチにするための教育・研究を推進する〜」でした。司会はS大学教授でM大学ウェルビーイング学部長に4月に就任した前野隆司先生でした。前野先生は私が尊敬する研究者の一人であり、興味津々で拝聴致しました。
前野先生は幸福学を研究し、人の幸福には「やってみよう因子・ありがとう因子・なんとかなる因子・あなたらしく因子⇒ありのまま因子」1)の4因子があり、この4因子を意識してバランスよく行動することで長続きする幸せを手に入れることができると言っています。
また第一生命経済研究所が発刊した『人生100年時代の「幸せ戦略」』では、「QOLを向上させ「幸せ」に生きるためには、「健康・お金・つながり」の3つの人生資産を自律的にデザインしていくことが重要」2)であると提言しています。
世界情勢を鑑みると、健康は損なわれ、つながりは分断され、食糧さえも手に入れることができない人々がいます。そのような現状では、なかなか幸せの4因子を意識することが困難になるのではないでしょうか。しかし、こんな状況だからこそ「想像と創造」が必要になると考えます。
3. イマジネイティブ&クリエイティブ・クラス
John Lennonの「Imagine」や「Happy Xmas(War is Over!)」 If You Want Itは人類の平和を願い作られた名曲であり、詳細を説明する必要はないでしょう!BANI時代だからこそ自分と他者、自国と他国、人種や価値観、時間と空間等々、違いがあるのは当然と受け入れ、だからこそ想像し合うことが大切なのではないでしょうか。
都市社会経済学者のRichard L. Florida教授は、「原材料から製品をつくる古い産業システムから、人間の才能と想像力の限界のみが制約であるクリエイティブ経済へと、すべては日々新たに変化している」3)と現代を変革の時代と捉えています。
また国際競争力については、「天然資源や製造技術、軍事力、科学技術による経済力の優位性によって人を集めることはできない。現在、国際競争力という言葉は、クリエイティブな才能を集め、引き寄せ、引き止める力という意味が中心」4)と考えています。
そして今後高い成長の見込める知識集約型産業は、創造的な人材の集まる都市や地域に立地することを示し、そうした21世紀型産業を支える社会階層を「クリエイティブ・クラス」5)と名づけました。また今後成長が期待される職業の分野として「専門的思考」と「複雑なコミュニケーション」6)を挙げ、これらはクリエイティブ・クラスの仕事と定義されると言っています。さらに100年後においても繁栄を確実にするために必要な経済成長の要素として3つの「T」を挙げています。
ちなみにリクルートワークス研究所の「特集 クリエイティブ・クラスの新結合」では、Florida教授のクリエイティブ・クラスを「価値を新しく作り出す人」7)と紹介しています。
4.最後に
耳なじみのない言葉についてあれこれ書きましが、何を言いたいかというと、「BANI時代の現在だからこそウェルビーイングを求める声が顕著となりましたが、ウェルビーイングを実現するためにも「想像&創造」が大切だということです。
Florida教授は「すべての人間はクリエイティブである」と言ってくれています。TAPには「想像&創造」を駆立てる要素が豊富に含まれているので、希望をもってBANI時代を乗り越えていきましょう!アドベンチャーは続く!
引用・参考文献
- 前野隆司「幸せのメカニズム」講談社現代新書、2013年、pp.105-110
- 第一生命経済研究所編、宮本由貴子、的場康子、稲垣円著『人生100年時代の「幸せ戦略」』東洋経済新報社、2019年、p.25
- リチャード・フロリダ著、井口典夫訳「クリエイティブ・クラスの世紀」ダイヤモンド社、2007年、p.33
- 前掲書3)、p.5
- リチャード・フロリダ著、井口典夫訳『クリエイティブ資本論-新たな経済階級の台頭』ダイヤモンド社、2008年
- 前掲書3)、p.41
- https://www.works-i.com/works/item/w104-toku1.pdf
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