ColumnTAPコラム
「自己のファシリテーションスタイルを把握する」
-学生スタッフと共に行なってきた学習から-
川本 和孝
TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。
TAPのプログラムにおいて、ファシリテーターの存在は非常に重要な役割を果たしますが、大学生のスタッフ(以降:学生スタッフ)にその指導をしていくのは、非常に頭を悩ますところのひとつです。ファシリテーターとは何をすればいいのか、参加者の可能性や潜在能力を引き出すためのファシリテーション、といった具体的なファシリテーションに関することだけでも、学習すべき事項は多岐にわたります。また、一方でプログラムづくり、リスクマネジメント、コースの使用方法等、それに伴う学習事項も幅広く存在しています。「TAPインターン」と呼ばれる、TAPの学生スタッフは、そうした日々の学習や研修、トレーニングを積み重ねながら、学内外のプログラムに「Co-ファシリテーター」として参加しています。
学生スタッフの悩み
学生スタッフはそうした、日々の学習や研修、トレーニングを積み重ねたとしても、それがすぐに結果を出せるわけではありません。上手くいかないことに頭を悩ませながら、日々改善を繰り返していきます。その中で、誰もがぶつかる壁のひとつに、「自分らしいファシリテーションとは何か」、「ファシリテーションをしていく上での自分の個性とは何か」といったことが挙げられます。多くの学生が「自分らしさ」や「自分の強み」を認識することができていないため、こうした悩みにぶつかるわけです。そのような中で、ある学生が次のような質問をしました。
「ファシリテーターの個性によって、チームのアセスメントの視点って変わるのでしょうか?」
そこで、今回はそうした学生スタッフの質問に対し、共に学習してきた内容の一部をシェアしてみようと思います。
○ファシリテーターの個性が及ぼすチームアセスメントへの影響
1. ファシリテーターの個性に関する影響
コミュニケーションスタイル
ファシリテーターは、その時の状況や環境に応じて、オープンで対話型のアプローチを中心として展開していく人もいれば、構造化(事前に決められていた流れ通りに展開)されたアプローチを中心として展開していくファシリテーターも多くいます。これにより、チームメンバーの参加度や発言の質が変わることがあります。
価値観・信念
ファシリテーターの持つ価値観や信念は、チームの問題に対するアプローチや解決策の選択に影響を与えます。例えば、チームの成長を重視するファシリテーターは、「チームの能力開発に重点を置く」といったことが考えられるし、個人の成長を重視するファシリテーターは「個人の能力開発に重点を置く」といったことが考えられます。また、価値観は個人の経験や出会った人に影響されていることも多く、それがチームをアセスメントする視点にも大きく影響を与えます。一方で、そうした自己に形成された価値観が、どのようなバイアスを引き起こしやすいのかを自覚しておく必要もあります。
2. チームの状況や文脈
チームの目標
チームの目的や目標によって、ファシリテーターは異なるアセスメント視点を持つことになります。例えば、目標が「コミュニケーション改善」にある場合と、「チームの成果重視」といった場合では、チームに対するアプローチが変わってきます。そのため、自身が事前に用意したアプローチ手段と現状のチームにおける目的・目標にギャップがないかどうかを、常に検討していく必要があります。
チームの文化的背景
組織やチームの文化が多様であると、ファシリテーターは文化的感受性を持ったアプローチを必要とします(そのチームの「色」の把握)。文化によって優先されるコミュニケーションスタイルや問題解決の手法が異なるため、アセスメントもそれに応じて変わってきます。
3. チームメンバーの特性
専門知識やスキルの多様性
チームに参加しているメンバーが以前にTAPのプログラムに参加したことがあったり、自身で勉強したりしたことがあると(専門知識やスキルのレベルが異なると)、ファシリテーターはその特性に基づいてアセスメントを行うことになります。異なる経験やバックグラウンドを持つメンバーがいるということは、参加者相互の視点を広げるきっかけにもなるため、有効に活用していくことが重要になります。
心理的安全
チーム内の心理的安全性が高ければ、ファシリテーターは率直なフィードバックや意見交換を促進しやすくなります。逆に、心理的安全性が低い場合、ファシリテーターは慎重にアプローチする必要があります。ただし、このチーム内の心理的安全性をどのように高めていくのかが、ファシリテーターの手腕の見せ所とも言えるでしょう。(FVCの使い方やFVCの定着化)
学生スタッフと共に学習してきた一部をシェアさせていただきましたが、まだまだ様々な観点があると思います。しかし、学習途中で学生スタッフから次なる疑問が生じてきました。そもそも、「ファシリテーターに求められるチームの状況を客観的にアセスメントするための視点」とは何か、ということです。そこで、次にその点における学習の一部を紹介していきます。
○ファシリテーターに求められるチームの状況を客観的にアセスメントするための視点
1. 客観性と中立性
個人的バイアスの排除
ファシリテーターは自己の個人的な意見や感情を排除し、チームや組織のデータに基づいたアセスメント(個人アセスメントと集団アセスメント)を行う必要があります。
- 「具体的な場面の切り取り」が核となる(『図解 玉川アドベンチャープログラム(TAP)を通したチームづくりの基』)を参照。
公平な視点
すべてのメンバーの意見を平等に尊重し、特定のメンバーやグループに偏らない判断を行うことが重要です。
2. (データ)ドリブンアプローチ
定量的および定性的情報の収集
客観的アセスメントには、数値(定量的)データ(効果測定、アンケート結果など)だけでなく、定性的なデータ(個人・集団アセスメントの分析、インタビュー、フィードバックなど)も重要となります。この点に関しては、私(Kazoo)のプログラムでは、非常に重視した事項になります。
- データドリブンとは:課題解決や意思決定の根拠として、データを収集し分析・活用する考え方やプロセス。
- 個人・集団アセスメントにおけるアセスメント素材も、重要な定性的データとなる。
- 個人の振り返り等で書かれた内容分析も重要な定性的データとなる。
- タイム測定型の記録等は、「定量的データ」として活用するため、その活動における平均値(対象や環境も考慮して)を理解しておくことも重要。
トレンド分析
時間とともに変化するデータを分析し、改善点や課題の傾向を見出す能力が求められます。特に、1日プログラムでは、出会いの場面(アイスブレイキングの頃)とコースにチャレンジする直前での頃では、チーム状況は大きく変化が生じてくるので(それを「トレンド」と呼ぶかは分かりませんが・・・)、そうした変化を客観的にアセスメントする必要があります。
3. システム思考
全体像の理解
チームや組織を一つのシステムと捉え、そこにおける相互作用や関係性を理解し、アセスメントしていくことが重要。その際に、「PM×山登り理論の8つの窓」※)等を効果的に活用してみることが有効です。
- (『図解 玉川アドベンチャープログラム(TAP)を通したチームづくりの基』)を参照
影響の評価
特定の要因が全体に与える影響を考慮し、部分的な問題(人為的な要因、特定環境の影響、プログラムの影響等)が全体に影響を及ぼす可能性のある事象をアセスメントすることが求められます。
4. 感情の理解と心理的側面
心理的安全性に関するアセスメント
チームメンバーが、リスクを恐れずに自由に意見を述べられる(Adventureできる)環境が整っているかをアセスメントし、メンバー同士の関係性や信頼関係の構築状況を把握することが求められます。また、チームのメンバー一人一人がどのような感情を有しているのかをアセスメントすることも大切です。
組織文化や多様性に関する感受性
組織文化や多様性をアセスメントし、異なる背景のメンバーによる視点や感情を考慮する感受性が求められます。
5. フィードバックの促進
対話の場の提供
メンバー間のオープンなコミュニケーションを促進し、率直なフィードバックを引き出すための場をつくることが重要です。
建設的なフィードバックの奨励
批判的な視点だけでなく、改善点を見つけ出しやすい建設的なフィードバックを重視します。
このように、学生スタッフと共に「ファシリテーター」に関する基礎的な学習はもちろんのこと、こうした学生スタッフ個々人の興味から派生した学習も随時積み重ねてきています。我々指導スタッフも含め、そうした学習やトレーニングがすぐに実を結ぶわけではないのですが、今後も少しずつ学生スタッフと共に研鑽を積んでいきたいと考えています。
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