ColumnTAPコラム
ムシ・生物の凄さから自然との関わりを学ぶ。それって人間関係に活かせる?!
村井 伸二(Shin)
TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。
急に寒くなってきましたね。猛暑から冬、あれ秋は?って感じですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
TAPを屋外で活動していると感じることがあります。活動中、私が何か説明する時や、みんなで振り返りしているときに、突如マイケルジャクソンのような立ち振る舞い、「ホォー!」みたいな(ご存じない若い方はネット検索を)人がいるんですよ。何か急に踊りたくなったか、体で表現したくなったかと思いきや、よく見てみると何かを追い払ってるんです。そう、飛んでいる「虫」が気になって仕方がないようです。しまいには「ちっ」なんて言っている。さも虫なんかいなくなればいいのになんて言わんばかりの振る舞いです。そもそも、なんでそんなに虫って嫌がられるんでしょうかね?
私が小さい頃は、これも個人差があるかもしれませんが、とにかく蟻の行列について行ってしまう(目的地に着かない)、ダンゴムシがいたらそこでしばらく、触る→まるまる→戻る→触る→まるまる→戻るのをずっと見ていたもんでした(かなり時間のロス)。虫さんにおいて、とても残酷なこともしていました。カナブンの首のところに紐をつけてワンちゃんのリードみたいにして飼ってみたり、アリジゴク(ウスバカゲロウ)にわざと蟻さんを落としてどうなるか観察してみたり。。。(問題があったらすみません。今はしていません。)カブトムシ、クワガタムシ、特に私はミヤマが大好きでしたが、そんなヒーロー、ヒロインもいました。さらに、近所の池にいるゲンゴロウ、タガメ、ミズカマキリなんて見たら、次の日の学校で「ゲンゴロウがいたぞ!」なんてニュースになったような時がありました(私だけだった?かも)。つまり、虫って当たり前の存在であって、なんだかそんなに毛嫌いするものではなかったような気がします。でも、ゴキブリさんは申し訳ないけれども、うちの母に容赦なく叩かれていました(ごめんなさい!)。でも大人になるとやたらと、さも虫が人間界の生活を脅かすかの如くです。これは本当に無視?できない話ですね。
大田尭先生の『教育とは何か』の冒頭にこんな話があります。高知県四万十川の小舟で夕食中に電灯にたかる虫に対して嫌な仕草をする客の姿を見た船頭さんが、「この虫たちを食べてあなたたちがこれから食する魚が美味しく育っているのですよ」という話を聞いて自然との「なりわい」について気付かされとありました。
また、ロバート・フルガムさんの『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』の「蜘蛛と御婦人」では、朝忙しくて急いで走りながら玄関を開けたご婦人は、その瞬間に蜘蛛の巣が張られていた。それが顔について「ワァーー!」となった。でも蜘蛛の気持ちになってみて考えると子供のために一晩かけて巣を張り巡らせて餌を獲得し食べさせてあげようと思った矢先に人間のどでかい顔が突っ込んできた。一方、蜘蛛の気持ちになってみるととんでもない獲物、「人間」が襲いかかってきたという話がありました。蜘蛛さんの方にしたみたら、それこそ「ワァーー!」ですよね。「蜘蛛は3億5千万年前から地球上に生きているからまず何があっても動じない生活の知恵を持っている。」とあるように蜘蛛はすごいんですね。我々よりも大先輩なんです。笑 *ちなみに蜘蛛さんは厳密には昆虫ではありません。。。ね。
虫は当たり前に自然界に溶け込んでいるものであり、我々も同様です(しかし、我々は自然界を攻撃し続けていますが)。そして虫の目線に立って、虫の気持ちになって考えてみる必要がないでしょうか。我々がもし虫ぐらいの生物だったと考えると、シロナガスオオクジラ級のでかいものが小さい人間が邪魔なので追い払おうとする。あの大きく長いヒレが襲ってくるなんて考えると夜も寝られません。まずクジラは人間を襲ったりしませんよね(今のところ)。たまには自然の中で過ごしながら虫に触るまではいかなくとも、観察してみることも重要なのかもしれません。そうすると、「なんでこんなことをしているのか?」「あ~こういったことなのか」なんて虫の生態や自然とのつながりの中に気づきがあるのかもしれませんよ。
丸山宗利先生の『昆虫はすごい』では虫の凄さを紹介してくれます。川や池でよく見るアメンボですが、海に適応した「ウミアメンボ」という海洋性の虫がいるそうです。産卵は流木などに行い、体表にある細かい毛で空気を溜め込み海中にいられます。また、体表に紫外線を吸収する構造を持っているそうです。しかし、陸に上がってしまうと無力になる儚(はかな)さも持っているということです。とてもロマンチックです。
そして、バイオミメティックス(biomimetics)という分野があります。虫や動物などの生態系からヒントを得てテクノロジーに応用していく分野です。例えば、トンボやハチの特性を活かして180度の超広角の複眼レンズが生まれ、フナムシによるわずかな光でも効率よく集光する眼の構造、ハエトリグモの8個の単眼による像のボケ具合による測距、キリギリスの音の振動を捉える超小型の受容器構造などが活用されることによって我々の生活が格段により豊かになっているのですね。本当に虫の多様性って凄いと思いませんか。
養老孟司先生と宮崎駿監督の対談集である『虫眼とアニ眼』の中で、感性とは「差異」を見つけられること、昔は自然環境の差異を見つけられていたが現代の特に子どもたちは、その「差異」が人間関係に偏っているのではないかと。蝶は勝手に飛んでいるのではなく「蝶道」と呼ばれる道に従って飛ぶそうなんです。しかし、その蝶道に家が建った瞬間にその道が途絶えてしまったそうです。虫はその差異に気づいていて、人間も本来持っている差異に気づく感性がなくなってしまった。このことによって、その差異を人間関係や人工物に割り当てているのではないかとおっしゃっていました。
確かにそうだなと思いつつ、我々人間関係のことばかり考えていることでは中々解決できないことがあるのかもしれません。それよりも全く関係ないかもしれないけれども虫など自然の中で何か色々触れ、見たりすることで、今一度感性を鋭く研ぎ澄ませ、とんでもない解決策を思いつくかもしれないということです(だからってTAPのハイチャレンジしている時に急に虫を捕まえるとかはやめてください!)。私なんかも人間だけを観察していると嫌なところばかり見えてしまいます。笑 でも虫を見ていると「あいつ嫌な虫だな~」なんて思わない。これって自然の摂理なんだろうなと思いながら見入ってしまいます。以前、お友達家族とキャンプに行った時に私の息子が虫かごにカマキリ2匹を捕まえて喜んで入れていました。お友達と違う遊びをした後に虫かごを覗いてみたら、メスがオスを食べていた。。。流石に彼はショックを受けていました。で。。。でも彼はここから何かを感じたのでしょうね。カマキリにしてみたら、「今、食事中なんだけど何か?何見てんの?」ぐらいのことだったのかもしれません。その後、お友達と喧嘩してもすぐ仲直りしたのには何か影響があったのか。。。?(嫌なことがあっても食べられるよりはマシかみたいな。)笑
本当に我々の生活は自然と乖離し続けているような気がします。でも自然と繋がりましょうと言っても皆さんお忙しいですから、中々遠くまで自然のために時間を費やすのも億劫かもしれません。しかも、「私は都会に住んでいるので」、みたいな方においては、いくら都会でも近くにちょっと木や草が生えていて、虫がいるところがあるかと思います。おすすめは神社、お寺で、ここならば確実な場だと思います。そこでちょっと虫を眺めてみてはどうでしょうかね。それぞれの特徴を良く観察してみると、構造が本当にかっこいいのですよ。そして何よりも効率が良く構成されていて、かつ自然で流れるような感じがします。あのカブトムシのツノのツヤと流れるデザインってどのように生まれたのか。。。ん~。ここからあの有名なロボ、「メカブトン」「ドタバッタン」「クワガッタン」が生まれたのか(タイムボカンより、要ネット検索)。フォルクスワーゲン社のビートルってクルマが生まれたのかな(ヨーロッパにはカブトムシは生息していないそうなんですが。。。不思議です)?なんて感心してしまう昨今です。
今回は直接TAPのお話しではないかと思われがちですが、私の中では本当に関係している話なのです。これからTAPをやっていく中で、また屋外で「フォー!」とマイケルジャクソンが増えていき、それを見るのも滑稽で楽しいのですが、逆に虫をゆっくり観察している学生なんかも見てみたいし、そういった学生が増えたらいいですよね。私ももう一度、「夢虫」になって虫から学ぼうと思っています。
玉川学園・大学は95周年を迎えました。多様化する時代に対応して最先端を追い求めるとともに今一度、虫や生物を含めた「自然の尊重」について探求していきたいと考えています。ではまた。
参考文献
- 大田尭, 1990, 『教育とは何か』, 岩波新書
- ロバート・フルガム(著),池央秋(訳), 1990, 『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』, 河出書房新社
- 丸山宗利, 2014, 『昆虫はすごい』, 光文社新書
- 一般財団法人 日本ITU協会ホームページ, https://www.ituaj.jp/?page_id=9817 (2024年11月15日アクセス)
- 養老孟司,宮崎駿,2008, 『虫眼とアニ眼』, 新潮文庫
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