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Gordonstoun校訪問から見えた「奉仕の精神」について
光川 鷹
TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。
昨年11月に冒険教育の生みの親であるKurt Hahnが設立したGodonstoun校※に訪問をさせていただきました。Gordonstoun校は、4歳半から18歳までの日帰りの生徒と寄宿生が在籍する英国の私立学校です。Kurt Hahnはバーデン公マックス氏の勧めにより、ザーレム校で長を務め、そこでの反省を踏まえてGordonstoun校を設立しました。学校のモットーである「Plus est en vous」は、「あなたの中にはもっとある」という意味で、私たち自身が自己を信じることの重要性を説いています。訪問を通じて、大変貴重なお話や実践の様子を垣間見ることができました。その中でもKurt Hahnの教育の特徴である「奉仕の精神」に関して、大変興味深い学びを得ましたので、訪問の様子と学習の記録を紹介したいと思います。

社会学の先生とKurt Hahnに関する話を聞いていると、バーデン公マックス(Kurt Hahnは彼の私設秘書として働いていた)が『SAINT BENEDICT’S RULE』という本をKurt Hahnに紹介したそうです。これが、Kurt Hahnにおける奉仕の精神の中核的な書籍になったと教えてくださいました。実際に『聖ベネディクトの戒律』(邦訳版)を入手して、開いてみると聖書に並び称される小冊であると書かれています。この戒律は中世の修道士の精神生活上の指針だけにとどまらず、西欧の生活様式に不可欠の貢献を示したようです。代表的なものとして、時間間隔におけるスケジュール(時間割)の概念や肉体労働に対する考え方の転換が挙げられます。特に肉体労働については、「己の身を労して働いて真の修道士なのです」と明記し、当時の労働は奴隷の仕事という価値観を覆すものとなりました。修道士は年齢や技能に応じて農耕、園芸、建造、書写などの労働を分担し、厳格な修養を行いました。
このようにして、ベネディクトは6世紀前半に修道院の発展に大きく貢献し、新たな時代を開始し、彼は西欧の修道院制度の父と呼ばれるようになりました。
以上の内容も踏まえつつ、この度の訪問での奉仕の精神に関して大きく2観点から考えてみたいと思います。
1.学業以外で熱中することに打ち込む経験

Prep school(日本で言う小学校)の校長先生から音楽やスポーツ、ドラマなど学業以外に打ち込める場をつくり、子どもたちに自信を持つための経験を提供することが大切だとお聞きしました。様々な背景やルーツを持つ子どもたちがいるなかで、自分が熱中できるものを発見し、それに取り組むなかで活躍の機会を用意することが重要となります。そこでは教師とのつながりが非常に重要となり、上手くいかなかった時にはなぜ失敗したのかを問い、自らその理由を語れるようになることを目指されていました。そういった経験を積みかねることによって、さまざまな活動に対して能動的に学ぶ態度が育まれやすくなるのだと考えられていました。また、2名の高校生が学校案内をしてくれた際には、1人の生徒が「僕は一生音楽ができる人生を送りたいんだ」と語ってくれました。多くの生徒が学業以外に熱中しているものがあるようで、自分の好きなことはこれだ!と自信を持って言えることに驚嘆しました。
先のベネディクトが説く労働に関する解釈のなかで、生活を維持するだけではなくアイデンティティーを喪失しないためには「職業以外の作業を何かしなければならない」としている。Godonstoun校ではスポーツや音楽、ドラマ、プロジェクト活動、セーリング、遠征プログラムなども学業成績と共に評価をしているため、自分が打ち込めるものを見つける環境が整備されているのです。また、熱中していることを十分に発揮する舞台が用意されているのも特徴的で、個人の努力が認められ、他者に肯定的な影響をもたらすという経験を得る機会が生まれやすいのだろうと思われます。そういった、自分自身に対して奉仕をする、まさに「自己奉献」が教育活動を通じて培われているのです。
2.Serviceの時間
Kurt Hahnの功績のなかでもServiceの設立は最も異例なものとされています。毎週水曜日の午後はServiceの時間が設置され、専門的基準で訓練されたなかで他者への奉仕活動が行われます。訪問時にはファーストエイドやCPR、ロープワーク、ライフセービング、Fire Serviceの活動を見学させてもらいました。

それぞれの活動は、上級生が下級生に知識やスキルを伝授するのがほとんどでした。また、地域の子どもを集めてクライミングの体験会を催していました。つまり、自分の持っている知識やスキルを後輩や地域の子どもたちに還元するという奉仕の時間となっています。このServiceに関して、Kurt Hahnは「危険にさらされている仲間を助ける経験、または実際にこの助けを与える準備ができるように訓練する経験は若者の内面生活における力のバランスを変える傾向がある。」と示しています。Serviceの時間で獲得されたスキルや知識は、有事の際に、サポートする役目を果たし社会評価もされています。Serviceを通じた「社会貢献」によって自分の力で何かできるという自負が育ち、Kurt Hahnが若者に願った思いやる心が芽生えるのだとよく理解できる実践に映りました。
以上のように、Godonstoun校での奉仕の精神は、「自己奉献」という自分のために矢印を向けた教育活動と「社会貢献」という社会のために矢印を向けたServiceの時間と整理してみました。そして、それらを通じてGodonstoun校の先生方が口々に仰っていた「Compassion(慈悲)」が育まれていくのだろうと実感しました。
今回は、Godonstoun校訪問の記録を紹介させていただきましたが、Serviceや奉仕は人間が探求していくうえで、大切なキーワードになると考えていますので、学習を進めていきたいと思います。
今年はTAP設立が25周年と節目の年になります。今年もTAPセンターをどうぞよろしくお願い致します。
文献一覧
- 古田暁訳『聖ベネディクトの戒律』株式会社すえもりブックス、2000年
- APMreports「Kurt Hahn and the roots of Expeditionary Learning」
https://www.apmreports.org/episode/2015/09/10/kurt-hahn-and-the-roots-of-expeditionary-learning (2025年1月28日最終閲覧) - ブライアン・C・テーラー著、聖ベネディクト女子修道院訳、古田暁監修『1500年の知恵 ―聖ベネディクト入門―』ドンボスコ社、2007年、78頁
- Jill Holls『Godonstoun AN ENDURING VISION』Thrid Millennium Publishing Limited、2011年、96~164頁
※Godonstoun校(Scotland) https://www.gordonstoun.org.uk/
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