ColumnTAPコラム

2025.07.22

学級における「解決しなければならない」話合いと「解決を必要としない」話合い

川本 和孝

TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。

学級における子どもたちの課題発見の現状

現在、様々な小・中学校で実際に授業をさせていただく機会があるのだが、そのプログラムの事前打ち合わせで、担任の先生方に次の2点の質問をすることがある。

まず1つ目が、「担任の先生が考える、学級の課題は何か」である。担任の先生はそれに対して、即座に様々な内容を答えてくださる。そして、次に「学級の子どもたちが考えている学級の課題は何か」ということを問いかけるのだが、ほとんどの先生方が首をかしげるだけで終わってしまう。やがてプログラムが終了し、そこで浮かび上がってくる「子どもたちが考える課題」は、先生方が考えていた課題とは何らかのズレが生じていることが多いのである。つまり、このことは学級における諸問題が、「子どもたちにとっての諸問題」ではなく、「教師にとっての諸問題」となっていることが、日常的に多く見られる、ということを示しているのである。

本来であれば、子どもたちの「日常の諸問題を解決する」という「課題解決」は、そもそも「日常の諸問題を発見する」という「課題発見」とワンセットなはずである。現状の学級経営や学級活動の場面では、こうした「日常の諸問題発見」なき「日常の諸問題解決」を強いられる場面が、事実として至る所で見受けられるのだ。

「解決を必要とする」話合いと「解決を必要としない」話合いとは

学級活動の話合いでは、内容(1)の集団決定に至る話合いと、(2)・(3)の個人の意思決定に至る話合いがあるが、そもそも話合いには「集団や個人での決定」という以前に、「解決(決定)を必要とする」話合いと、「解決(決定)を必要としない」話合いが存在しているはずである。

「解決を必要とする」話合いとは、討議・討論といった、いわゆる会議やミーティングを中心として、子どもたちが所属する学級を運営したり、自分たちの理想とする学級に近づけていったりするための、重要な役割を果たす話合いである。その一方で、「解決を必要としない」話合いとは、対話を中心として、学級で生じている様々な問題点を全員で共通認識したり、お互いの食い違いや認識のズレを理解したりするための役割をもつ。特に、表面的には「問題なく楽しんでいる」(ように見える)学級集団では、内在化した問題が表面化する前に、それを顕在化させ、解決していくために、対話的話合いによる意識の共有化が、重要な役割を果たすのである。しかしながら、先にも述べたように「教師にとって」の日常の諸問題が教師によって提示され、その意図的に提示された議題で学級での話合いが行われたとすれば、それは子どもたちにとっては問題意識のない「やらされる」話合いと化してしまう。そして、その結果として子どもたちにとっては「今ここで」起こっていることの問題を解決するための「手段としての話合い」ではなく、「いつかどこかで」役に立つであろう「学習」へと変化してしまうのである。

つまり、教師によって与えられた課題を基にした議題が示されてしまった場合( もしくは誘導的にそうなってしまった場合)、その話合いは必然的に「解決を強いられた学習」となるということである。

学級活動における話合いで最も大切な、学級内の「今ここで」起こっている問題を、子どもたち自身の手によって課題発見し、それを共有化した後に議題化することは、非常に大切なプロセスとなる。そして、その課題を解決していくには、教師はそこでの学びを促進していくための「ファシリテーターとしての役割」が強く求められてくるのである。それは、そこに例え教師の意図的・指導的な思惑があるにせよ、子どもたちの中で起こっていることを、「共に導き出していく」というプロセスが求められるのではないだろうか。

現在の学級活動においては、特別活動の年間時数の少なさが影響していることも考えられるが、この「解決を必要としない」話合いは、圧倒的に不足しているのではないか。本来であれば、子どもたち自身にとって「今ここで」何が起こっているのか、という確認作業となる、対話的な「解決を必要としない」話合いを抜きにして、「解決を必要とする」議題は必然的に生じてこないはずなのである。

対話を促すファシリテーターとしての教師

「解決を必要としない話合い」とは、個人的には対話とイコールとして考えている。そして、その対話を促進させる役割が「ファシリテーターとしての教師」ということである。学級活動やTAPの活動中において、対話の重要性に関しては日々実感しているところではあるが、特に「課題の要因を探る」という点においては、「対話を促すファシリテーション」は、一際重要になると考えている。

次回のコラムでは、学級活動(2)の学習過程とTAPにおけるファシリテーションを関連させつつ、改めて「対話を促すファシリテーション」について私見を述べていきたい。

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