ColumnTAPコラム

2026.02.27

ファシリテーターはセンスなのか
―意図を持ってかかわるということ

光川 鷹

TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。

1.センスという言葉への違和感

教育現場では「あの先生はセンスがいい」と語られる場面にしばしば出会います。私自身も、ついその言葉に乗ってしまうことがありますが、これはファシリテーターの世界においても同様であり、むしろその傾向はより強いように感じています。子どもの声を丁寧に聴き、寄り添うことができる人。小さな変化に気づき、場の空気を壊さずに自然に介入できる人。屈託のない笑顔で参加者を惹きつけたり、ときにはカリスマ性を持って場を導いたりする人。こうした姿は、「対応がうまい」「勘がいい」と表現され、しばしば“センスがいい”という言葉で語られませんか。

しかし、ファシリテーター養成や実践を重ねる中で、それらは本当に生まれ持ったセンスと片付けてしまってよいのだろうか。それとも、私たちがまだ言語化できていない何かが存在しているのではないだろうか。そのセンスや感性は育むことができないだろうか。と学生と共に私自身もファシリテーションを学びながら、このような問いが常に頭から離れないのです。この問いを考え続ける中で、私がたどり着いた一つの視点が、「意図を持ってかかわっているかどうか」ということです。

2.ファシリテーターは“変化の途中”にかかわる存在

実践を重ねる中で、私なりに考えるファシリテーターとは、参加者の気づきを手助けし、その後の変化をより促進していく人を指しています。ここでいう「変化」とは、体験の中で起こる出来事を点としてではなく、線として捉えていく過程の中で生まれるものだと考えています。さらに、その変化は、参加者の思考や感情といった目に見えないものが徐々に顕在化していく中で移り変わっていきます。こうした気づきや変化は、多くの場合、参加者自身の文脈や無意識の中で成立しています。しかし、その文脈や目に見えない動きをファシリテーターはどのように理解し、かかわりの中から引き出していくことができるのだろうか。そのためには、目の前で起こっている状況に対して問いや疑問を持ち、仮説を立て続けることが重要になると考えています。そして、その仮説は参加者とのかかわりの中で検証されていくことが欠かせません。かかわりを伴わずに状況を理解しようとすると、それは安易な「断定」や「思い込み」へとつながり、場で起こっていることとの乖離を生んでしまうことが少なくないです。

つまり、ファシリテーターのかかわりは常に選択の連続であり、その選択には何らかのねらいや仮説が伴っている必要があります。仮説を持ってかかわろうとする姿勢こそが、「意図を持ってかかわる」という姿なのではないかと考えています。

3.意図を阻むものとは何か

しかしながら、意図を持ってかかわることに難しさを感じているファシリテーターの姿を目にすることも多く、実際にその悩みについて相談を受けることも少なくありません。例えば、「正解を出さなければならない」という焦りや、沈黙が生まれることへの恐れ、周囲からの評価を気にしてしまうこと、さらにはディレクターとの解釈のずれへの戸惑いなどが挙げられます。こうした周囲からのプレッシャーや不安が、意図を持ってかかわろうとすることを難しくしてしまう場面は少なくないように感じています。そのような状況の中で重要になるのは、自分が行動に移そうとした問いや仮説を、一度立ち止まって捉え直すことです。リフレーミングを通して、そのかかわりが参加者やプログラム全体にどのような展開をもたらし得るのかを考えることで、かかわりの意図は少しずつ広がっていきます。また、その難しさをもたらす要因について本人だけの問題にせず、その環境や構造に目を向けて捉えていくことも大切になっていきます。まさにシステム思考を働かせ、ファシリテーターチームの形態ややり方に解決の糸口を探ることも忘れてはならない観点です。

つまり、意図を持つということは、ファシリテーター自身の考えや判断の中に閉じることではなく、そのかかわりが場や参加者にどのような影響を与えるのかを認識し続けることにあるのではないでしょうか。そのためには、振り返りを通して自らのかかわりを見つめ直し、参加者や他のファシリテーターの立場に立ちながら理由や背景を推測・想像する視点を養っていくことが求められます。こうした営みの積み重ねこそが、意図性を育んでいくプロセスなのだと私は考えています。

また、意図は個人の内側だけで形成されるものではありません。共に場を担うファシリテーターやディレクターとの対話、そして参加者との相互作用の中で揺さぶられ、更新されていくものです。自分では見えていなかった視点に触れることで、かかわりの意味が問い直され、新たな見立てが生まれていきます。そうした協働的な省察の積み重ねが、結果としてファシリテーターの意図をより確かなものにしていくのではないかと感じています。

4.意図を持って場に立つということ

ファシリテーターであっても、場で起こっているすべてを理解することはできません。参加者一人ひとりの思考や感情、関係性の変化のすべてを正確に捉えることは、本来きわめて難しいものです。しかし、そのような不確かさの中にあっても、自分がどこに目を向け、何を大切にしてかかわろうとしているのかは選ぶことができます。

意図とは問いを持ちながら場を見続ける姿勢であり、場を共に構成しようとする一貫したかかわり方であると考えています。ファシリテーターの一挙手一投足の中に込められた思いや願いをどのように受け取り、それをどのように自分に活かしていくのかを問い続けることを通して、「自分で考えながらかかわるファシリテーター」が育っていくのだと思います。

だからこそ、ファシリテーターには技術だけではなく、そのかかわりを支えるマインドが土台として求められます。ファシリテーターがすべてを理解することはできなくても、どこに光を当てるのかは選ぶことができます。その選択こそが意図であり、意図を持って場にかかわろうとする営みは、決してセンスという言葉だけで語られるものではありません。むしろ、自分で考え続けながらこの場に向き合おうとする姿勢そのものが、ファシリテーターが主体的に場とかかわり続けるための基盤であり、ファシリテーター育成において大切にされるべき素養であるといえるでしょう。

これからも、「センス」と呼ばれてきたものに抗いながら、意図を持ってかかわろうとする実践知を育成の中で積み重ねていきたいと考えています。すべてを理解することが難しい不確実な時代だからこそ、問いを持ちながら他者や場とかかわり続ける力が求められているのではないでしょうか。ファシリテーションの学びは、単なる技術習得にとどまらず、そのような社会の中で他者と共に在り続けるための学習機会として、これからますます重要になっていくのではないかと感じています。

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