ColumnポストコロナとTAP

2020.07.07

ポストコロナとTAP(第4回)

川本 和孝

TAPスタッフが短期集中コラムとしてコロナ禍の教育の実情と課題について提言します。

東京都知事選の投票率55.00%で「高い関心」??

東京都では新型コロナウイルスの新規感染者が5日連続(7月6日現在)で100名を超え、予断を許さないような状況が続いています。そのような中で、7月5日には東京都知事選が行われ、投票率は55.00%という結果でした。一部の報道では「コロナ争点で高い関心」との見出しもありましたが、半数の都民が選挙に行っていないような結果に、我が国における「民主主義国家としての現状」に改めて不安を抱きました。現在、新型コロナウイルスに関する問題は、国際・国内社会、経済、地域、学校等、至る所に甚大なる影響を及ぼしており、もはや「どこかの誰かの問題」ではなく、紛れもなく私たちの日常と隣り合わせにある、「自分たちごとの問題」のはずです。自分たちがどのような国にしていきたいのか、どのような地域を作っていきたいのか等、それらは「いつか誰かがやってくれる」ものではなく、「自分たちがつくっていく未来」のはずです。コロナ禍における学校教育においては、そうした未来の民主的な国家づくりを担う児童・生徒を育成する役割について、改めて見直していかなければなりません。

日本は対話的・民主的に問題解決できる素地が育まれているのか?

現在、国内外において「民主主義」が問われるような問題が相次いでいますが、香港もまたその一例でしょう。もし仮に、5年~10年後くらいに日本で現在の香港のような国家による統制(国家安全維持法と同様の)が敷かれるような状況に陥ったら、日本国民はその時どのような反応を示すか想像してみてください。「民主的な国家を維持したい」という動きはどうやって、どの程度行われるのでしょうか。興味を全く持たない人、もしくは文句ばかり言って終わる人、または暴力的に反対を訴える人・・・、が多数を占めるような気がしてなりません(皆さんはどう思いますか?)。未来、そうした問題に直面した時、対話的に、そして民主的に問題を解決しようとする人が、どの程度の割合を占めるのかは、まさに「今の教育」にかかっていると言っても、過言ではありません。第1回目のコラムで、既にそういった類いの内容に触れてきていますが、今回も学教教育現場における「コロナ禍における自治的能力」の育成に関して考えて行きたいと思います。

軽視される児童・生徒の自治的能力の育成

冒頭にも述べたとおり、現在の学校では新型コロナウイルスの感染予防に伴い、様々な制限が設けられています。第1波の余波が一向に収まる気配がなく、また第2波に向けての不安が募る中で、「新しい生活様式の定着化」は学校現場においても、非常に大きな課題となってきています。消毒や手洗い・うがいの徹底化、マスクの着用、3密の回避、ソーシャルディスタンスの確保など、先生方もこれまでの業務のプラスアルファとして、こうした事態に向き合ってきているのです。ただし、通常登校が再開されて数週間が経った今日において、そうした感染予防対策はもはやほぼ「前提」となってきており、先生方の意識においても「今取り組むべき最重要課題」ではなくなってきているように感じています。事実、筆者が代表を務める団体が行ったアンケート※1)では、分散登校が最も多い回答時期ではあるものの、「教師として今最も大切にしたいこと」は、「子供たち同士の人間関係の形成」(57.6%)が最も多い回答となっていました。また、6月29日に筆者が行った教員研修にて、約150名(本来は定員300名だったのが感染予防のため半数に削減)の先生方に同様の質問をしたところ、やはり「子供たち同士の人間関係の形成」が最も多い回答数となりました。
通常、こうした「人間関係の形成」や先に述べた「自治的能力の育成」に関して、小・中・高の教育課程においては、「特別活動」※2)がその要となります。しかし、現在のコロナ禍においては「多様な集団活動を通じて」行われる特別活動は、どうしても「感染予防」を理由として敬遠されがちな状況にあります(TAPも同様)。文部科学省からの通達では、現在週1回の学級活動の時間の確保することや、児童会・生徒活動、クラブ活動や学校行事も、創意工夫して実施することが前提となっています。ですが、実際には「創意工夫」されることもなく、行政や学校の判断として「今年度は中止」「現状未定」となっている学校が少なくありません。もちろん、感染予防を前提とした上ですが、こうした決定に至る背景に、どれだけ「児童・生徒」の声が反映されているのか、児童・生徒の自治的能力の育成が考えられているのか、ということが「問題になっていないことが問題」なのです※3)。児童・生徒から、コロナ禍における日常の諸問題を奪って、大人の問題にしてしまうことは、やがて民主主義国家としての日本の未来における危機につながるものではないでしょうか※4)。

「学力格差」から「自治能力格差」へ -懸念される「特活格差」-

先に紹介したアンケートの結果として、「コロナウイルスに関する生活上の諸問題」を、教師だけで考えている場合(約7割)と、子供達とともに考えている教師(約3割)とに分かれることが分かっています。もし、この状況がもし仮に続いたとしたら、学力格差と同様、もしくはそれ以上に「自治的能力や主権者として積極的に社会参画する力」の格差が、学校・地域によって生じる可能性があります。

段階的に通常登校が再開されてきている現在(7月6日現在)の状況では、ICTの環境が整っている地域とそうでない地域、または新型コロナウイルスの感染状況によって休校や分散登校がやむを得ず長引いてしまう地域と、そうでない地域等といった、「地域による学力差」に関する懸念があります。また、休校中や分散登校中に積極的に課題に取り組んできた子供とそうでない子供との「学内における学力差」によって、教科中心とは言いつつも、なかなか授業の進度が上がらないといった懸念もあります。こうした懸念は、少なからず教育課程の年間時数が削られている今日において、教師にとっての「焦り」にもつながっているのは間違いないでしょう。

しかし、「格差」問題はやがて学力だけでなく、「特別活動」にまで及ぶ可能性があります。現在※5)の状況下においても、「創意工夫」で特別活動の実践を行っている学校は実際にあります。そのため、子供達が主体的に参画できる「自治的活動の範囲」として、コロナウイルスの感染予防に関する対策を行っている学校とそうでない学校とでは、「集団としての質」は大きく差が開いてくるのではないでしょうか。つまり、子供たちが新型コロナウイルスに関する生活上の問題を、自分たちの問題として考えたことが「ある」か「ない」かによって、「自治的能力(自分たちで生活づくりしていくための能力)」の育成に大きな差が生まれてくるのではないか、ということです。

  • ※5 7月6日現在

新型コロナウイルスに関する生活上の諸問題に対し、
子供達が参画できるための指導ができているか…。
それ次第で、今後「自治的能力の育成」に格差が生じる可能性があります!(特活格差)

コロナ禍で変わってしまった学級経営の指導順序!?

コロナ禍以前の学校では、「集団指導(学級開き)」➞「生徒指導(ガイダンス及びカウンセリングの機能を中心として)」➞「教科指導」という指導順序が通常でしたが、今年度のコロナ禍の状況(休校措置や分散登校等の影響下)では、「教科指導」➞「生徒指導(個の不安への対応)」➞「集団指導」という指導順序が主となっています。

そもそも、子供達の学習の遅れに関する不安、コロナに関する不安、人間関係に関する不安等における対応は、生徒指導の役割(ガイダンスとカウンセリングを中心として)が中心となります※6)。本来であれば、先生方は教科指導、生徒指導、(特別活動を要とした)集団指導のバランスに配慮しながら学級経営を行ってきました。ただ、このバランスが新型コロナウイルスの感染予防に伴って、偏りが生じてはいるのではないでしょうか。また、今日における現場での指導実態を鑑みると、「感染予防」や「安全確保」という名目上、特別活動を要とした集団指導を一度も行わないまま、1学期を終える学校も可能性としては大いにあり得るのです(生徒指導も同様に・・・)※6)。

【コロナ禍前と現在における指導順序の違いがもたらすもの】
【引用】「新型コロナウイルス感染症の対応に伴う小学校における特別活動の現状に関する意識・実態調査 に関して」
https://kibounokai.web.wox.cc/bookmark

先のアンケートでは、「教科指導」偏重の現状においても、これまでと同様の手順で指導している教師や、何らかの方法で「集団指導」に着手し始めている教師も多くいることが分かっています。しかし、これらの実践は、指導順序は同じであってもその手法はこれまでとは異なり、「現状に合わせた創意工夫を子供たちとともに行っているところ」に着目しなければなりません。そのようにして考えると、新しい生活様式の中で、「生活づくり」や「集団指導」に関する新しい手法を、「教師と子供たちがともに」模索していくことや創意工夫していくことが、今後さらに求められるのではないでしょうか。コロナ禍における生活上・日常の諸問題を、「自分たちごと」として課題を発見し、解決していくことによって、子供たちが「自分たちの手で乗り切った!」という自信を持てるよう指導していくことが、TAP的視点としても重要だと考えています。

学力格差に着目されがちだが、やがて特活格差が問題となります!!
生徒指導や特別活動を疎かにした「学力偏重の末路」は既に歴史が示しています!

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