ColumnTAPコラム

2025.08.22

青年期の野外活動における
少しきつい、少しつらい、少し不安定な体験の大切さ

永井 由美

TAPセンターの指導スタッフによるコラムを毎月掲載していきます。

今年の1月(TAPセンターコラム第35回)に光川先生がTAPセンターのコラムでスコットランドにあるGordonstoun校の訪問を経て、本校での奉仕の精神について掲載しました。8月になり、訪問をさせていただいた光川先生と私にとってはかなり驚きのニュースが舞い込んできました。それはなんとGordonstoun校の姉妹校が日本の和歌山県に2027年に開校されるということです。開校する和歌山県の梅原という場所が選定された理由もスコットランドのように山と海が近くにあり、自然豊かな環境、そしてセイリングに適した環境であるからのようです。

今回は改めて、Gordonstoun校での野外活動と私たちの玉川学園での活動に関してお話ししたいと思います。改めてGordonstoun校は、アドベンチャー教育の父でもあり、玉川学園も加盟をしているラウンドスクエアも設立をした教育者のKurt Hahnが創設した学校です。本校の特徴の1つとして、本格的な野外活動を学校カリキュラムの中で実施しており、そのような活動を通して若者の人格形成をしている点です。野外活動の中でも特にGordonstoun校の教育の重要な要素となっているのがセイリングトレーニングです。生徒はカリキュラムの一部として、セイリングトレーニングを行います。学校の敷地から15分程度離れた場所に港があり、Gordonstoun校が所有するボートハウスがあり、そこにセイリングボート、トールシップ(大型帆船)などもあり、その港周辺でのセイリングを始め、秋から冬の季節以外で北極の方まで遠征に行くプログラムも行っています。その他、定期的にトールシップレース(伝統的な大型帆船が参加する帆走レース。速さや航海技術の習得だけでなく、セイルトレーニングの一環として、若者の育成を目的とするもの)にも参加をしています。他にも山登りやロッククライミング、マウンテンバイク、スキーなども行っています。

このような活動を学校教育の中で実施しており、真似することのできないスケールですが、私たちの玉川学園でも2005年頃まで「鍛錬旅行」という中学3年生が行う行事ですが、野外活動がありました。鍛錬旅行では中学3年生の生徒全員が岩手の山を始めとして、登山をしながら移動し最終的に青森にある八甲田山に登ります。私も中学3年時に経験をしました。他の学校は修学旅行の行き先として京都や奈良、広島や長崎、さらには沖縄などになることが多いかと思います。玉川学園では林間学校や世で言う修学旅行の際はあまり観光地に行くことはありませんでした。「修学旅行」という言葉も使用していませんでした。林間学校も鍛錬旅行もほとんどが自然の中で行われました。修学旅行で一般的な日本の観光地に学校の友達と行きたかったという気持ちになったこともありましたが、今になり鍛錬旅行のことを振り返ると、玉川学園の林間学校も鍛錬旅行もとても貴重な体験であったと思えます。

スコットランドの出張から帰国後、セカンダリー6〜12年の教育部長の中西先生(当時、中西先生は同じ学年の他のクラス担任であり、私は数学を習っていました)とGordonstoun校のこと、そして鍛錬旅行のお話をした際に、「最近の子どもたちはすごくきつい、つらい、不安定なことにはあまり耐えられない傾向がある。でも、少しきつい、少しつらい、少し不安定なことに取り組んだり、挑戦したりする必要があると思う」とおっしゃっていたことが印象的でした。私も生徒だった当時、自分は普段、部活をやっているから体力は大丈夫だろうと思ってはいても登山の歩くスピードについていけるのか、最後まで登り切ることはできるのか、まさに少し不安定な状況だったと思います。精神的には鍛錬旅行が始まる前からストレッチゾーンの状態だったと振り返ります。鍛錬旅行の登山の中で少しきつい、少しつらいと感じることがありました。しかし、とても達成感がありすごく記憶に残っています。観光地に行き、文化や歴史に触れることも大切ですが、そこでは体験することのできない少しきつい、少しつらい、少し不安定なことに挑戦ができる体験ではないかと思います。

登山中は当然のことながら急に雨が降ってくることや、起床時から雨天で雨の中出発し目的地まで進んでいかなければならない日もありました。歩き始めた直後、ぬかるんでいる地面で滑って転び、ズボンが泥だらけなったこともありました。先がまだ長いため着替える訳にもいかず汚れて濡れた部分がとても不快でしたが、我慢し登り続けるしかありませんでした。転んだことを悔いても自然相手では文句も言いようがありません。野外活動の場では服装や備品面でどんなに準備をしていても、想定外のことが起き、重大な危険に陥らないにせよ、対応しきれないこともあると私は思っています。そんな時は我慢しその場の環境に順応して前に進んでいくしかないのです。Gordonstoun校のセイリングを始め、トールシップでの遠征航海、そしてその他の野外活動の中で子どもたちにとってどのようなきつさ、つらさ、不安定な状況があるのか、子どもたちは実際にどんなことを感じるのか細かなことは私には分かりませんが、想像の中で子どもたちは直接体験しチームワークや決断力、困難に遭遇する中での仲間からのサポート、仲間を思いやる気持ちなど多くのことを感じるのだと思います。玉川の鍛錬旅行での経験と重なりあってくる部分もあるのではないかと考えます。そして、両校での体験活動を通じて大切にしてきたものが共通するようにも思えます。

今後のTAPセンターの活動を模索していく上でもチャレンジコースだけでなく、本当の自然の中で自然と対峙しながらちょっと頑張らなければできないこと、少しきつい、少しつらい、少し不安定なことを試行錯誤しながら取り組む、やり抜ける体験を提供する必要があるのではないかと考えています。


  • Gordonstoun校への視察の詳細に関しては、TAPセンター年報10号に掲載しましたので、ご確認していただけると有り難いです。
  • 玉川学園の鍛錬旅行に関しては、以下のURLからも確認することができます。
    「写真で見る玉川学園④ 「鍛錬旅行」

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